第29章 停戦協定※
「うー…、これも塗るんですか…?」
「そうよ。ほら、早く。」
ほの花との蟠りは思ったよりもない。
見た通り、裏表のない性格は当たっていて前と変わらない態度の彼女に正直助けられた感もあるが、自分が思ったよりも本当はほの花を気に入っていたのだという事実に面食らっている。
天元とのことがなければ、妹みたいに可愛がっていただろう。
手のかかる妹の世話を焼く姉のような感覚だ。
今日は天元との蜜事で着物を汚されたせいで新しい着物を買ってくれると言うので出かける予定だった。
それなのに朝餉時に寝ぼけた顔を見せたかと思うと、その後も着物を替えただけで、縁側で天元の胸を背もたれにしてボーッとしているほの花をとっ捕まえたのはさっきのこと。
恐らく時間になったらそのまま行くに決まっている。確かに天元の言う通り、そのままでも誰もが振り返る美人なのは間違いない。
だが、せっかく出かけると言うのに少しのお洒落もしないほの花に勿体ないと思うのは私だけではない筈だ。
私の行動に苦言を呈してきた天元だけど、大して取り合わない。どうせ独占欲によるものなのだから、いちいち相手にしていたら日が暮れてしまう。
引き摺るように部屋に連れて来ると、鏡台の前に座らせて化粧品をずらーっと並べてやる。
眉間に皺を寄せて口を尖らせて、ほんの少しの抗議を示しているほの花だが、問答無用で下地から塗っていく。
白くて陶磁器のように滑らかな肌にはそこまで白粉は要らないが、目元や頬など少しくらい色を入れたらもっと引き立つのだ。
「…な、なんか…濃くないですか?!わたし、おてもやんみたい…!!」
「そんなことないわ。いつもやらなさすぎだからそう見えるのよ。綺麗よ。」
「そ、そうですか…?宇髄さんに笑われないかなぁ…。」
「天元は絶対大丈夫だと思うけど、朝からおっ始めると困るからあんたは此処にいなさい。」
濃いだの、おてもやんだの…
散々言っているが実際は全くそんなことなく、ただ慣れていないからそう見えるだけなのだ。
その証拠に三人の元嫁達が噂を聞きつけて部屋に入ってきた途端に称賛の声を上げたので、ほの花も渋々ながら納得していたようだった。