第29章 停戦協定※
顔面蒼白のほの花を抱き上げると布団を避けてそのまま畳に横になって、腕枕をした。
畳は硬いけど、こちとら元忍だ。野宿することくらい慣れているし、畳で寝られるだけマシなのだ。
しかも、愛した女をこの腕に抱いて眠れるならどこでも天国だ。
「…体痛くなりそうだけど、いいの?お布団持ってくるよ?」
「んー?もうちょいこのまま。あとで持ってきてやるから。」
「このまま寝ちゃうよー…。天元の腕の中気持ちいいんだもん。」
真っ裸で畳で寝転ぶなんて初めての経験だけど、い草のいい香りが体中に纏いなかなか良い。
硬いのは仕方ない。
「お前は寝てもいいぜ。俺は寝顔見るから。」
「……え、ずる!!私も見る!早く寝て?!」
「無理無理。ほーら、ねんね〜。」
よしよしと頭を撫でて眠りに誘おうとするが、ほの花の表情は浮かない。
俺の寝顔なんか見て何が楽しいやら分からないが、やたらと見たがるのでたまに寝たふりをしてやっている。
その時の満足そうな顔が可愛いからついつい甘やかしてしまうのだ。
「ねぇ、天元…。たまにね…、想像するの」
「何の?」
微睡みながらぽつりぽつりと話し出すほの花は粋がっていたが、目はとろんとして眠そうだ。
頭を撫でながら彼女の言葉に耳を傾けると俺も少し眠気に襲われた。
「もし天元の、お嫁さんになったら…って。」
「"もし"じゃねぇよ。なるんだわ。」
「う、ん…、そしたらね、子どもは女の子と男の子両方、欲しい…、可愛いだろうなぁって想像するとワクワクする…。想像ってたのしい…。」
眠そうに目を擦り出すほの花はもう間も無く眠りにつくだろう。目を閉じれば心地よく彼女の声が響いてきた。
「…てんげん、のおよめさん、になりたい…。」
「心配、しなくても…してやるから。待ってろ。」
「…うん。ありがと…。」
そう言ったのを最後にほの花から寝息が聞こえてきた。愛し合う男女に訪れる最高の未来を想像するだけしか今はできないが、彼女がそれを望んでいることを言葉にしてくれるだけでも今は嬉しい。
「…絶対…幸せにする。」
現実は目を背けたくなるほど凄惨なこともあるが、二人でいる時だけは未来に想いを馳せることを許して欲しい。
そう願いながら俺も微睡に意識を手放した。