第6章 君思ふ、それは必然
「おはようございます!宇髄さん!」
次の日、起きるとほの花がいつも通りに朝の鍛錬をしていて拍子抜けをした。
「…体調は?」
「あ、えと…もう大丈夫です!あ、あれ?正宗たちに聞いたんですか?やだなー、大したことないんです。」
白々しい嘘を並べ立てるほの花に眉間に皺がよる。
その目の赤さは昨日夜通し泣いていたんだろ?
体調が悪くないのは本当だろうが、狸寝入りをしていたことくらいお見通しだ。
頑なに何があったのか自ら言おうとしないほの花に聞いてしまおうか迷ったが、あまりに話題を変えようと必死な姿が痛々しくて聞けなかった。
こんなことは初めてだ。
ほの花は割と素直な性格で聞けばいつもすぐに話してくれるような奴。
それなのに今回は無かったことにすらしようとしている。
思い出したくないほどつらいことがあったのか?
つらさは分かち合って半分に。
喜びは共に喜び二倍に。
そう思っているのに自分を頼ってくれないほの花にどうしたらいいのかわからなくなっていた。
好きだからほの花の役に立ちたくて彼女の領域に踏み込もうとするが、するりと手からすり抜けていくような感覚が気持ち悪い。
「…ほの花、何かあればいつでも言えよ。俺はお前の味方だから。」
「あ、あはは…!"師匠"がいれば百人力ですね!あ、千人力!?も、もっとですかね!」
冗談だと思っているのか笑って軽口を叩くほの花の手を取って握った。
「冗談じゃねぇから。」
「え、あ、あの…、りょ、了解です!何かあればすぐ言いますね!ありがとうございました!」
せっかく握っていた手をあっけなく離されると精一杯の笑顔を向けてくれたが、その顔が引き攣りとても"笑顔"と呼べるものではない。
それでも、心配かけたくないのかほの花は感情の欠落したような薄っぺらい笑顔を向け続けた。