第6章 君思ふ、それは必然
襖を閉めると布団が敷いてあるところまで歩みを進め、そこに腰を下ろした。
少しだけピクっと反応をしたほの花だが、まだ彼女の声は聴こえない。
「ほの花?どうした、大丈夫か?」
「……。」
「体調悪いんだろ?熱は?」
「………。」
「飯は?食えるか?」
「…………。」
どうやら今は放っておいてほしいのだろう。
少しだけ震えているような気がしたので、布団をかぶってることで少しだけ出ている頭半分に触れてみる。
決して熱くはないそこに、熱がないことだけは分かって少しだけホッと一安心した。
「熱はなさそうだな。今日はゆっくり休め。何かあれば遠慮せず呼べよ。すぐ来るから。」
「……………。」
「明日の鍛錬はなしにしてやるから寝てろよ。じゃあおやすみ。」
半分だけ出ている頭に添えている手を動かし、撫でてやるとまた少しピクっと反応したが、最後まで話すことはなかった。
ほの花は本当にクソ真面目な女だ。
師匠である俺がここまで話しかけているのに返事もしないなんてことは今まで一度もなかった。
それほどまでにほの花を追い詰めた何かがあったということだけは分かるので、無意識に手を握り締めた。
何かはわからない。
でも、直感的にほの花が傷付けられたのだと思った。
俺はほの花の傷ついた心が少しでも癒えればと自分が納得するまで彼女の頭を撫で続けた。
すると、途中で布団の中から寝息が聴こえてきたので少しだけ掛け布団を捲ってみた。
美しい顔立ちは変わらないが頬には涙の跡。そして長い睫毛には涙がそのまま残されていた。
それを拭い取ると部屋を後にする。
正宗たちからほの花の状況を聞いた雛鶴たちが代わる代わる様子を見に行ったようだが、ほの花は寝たままだったと言う。
俺も寝る前にもう一度様子を見に行ったが、彼女の声が聴こえることはなかった。