第29章 停戦協定※
あー、苛つく。
勝手に嫉妬することはあっても、こんなに堂々と宣戦布告してきた男はいない。
もちろんあの変な付き纏い犯は除く。
俺が柱ということもあって鬼殺隊士はほの花に手を出そうだなんていう輩はいない。
町中でほの花を見初める野郎がいてもおかしくないが、幸い腰を引き寄せて歩いていることも多いので、ほの花が俺の女だと言うことは知れ渡っているだろう。
町でも迂闊にほの花に声をかける男は殆どいない。だが、見られていることは知っているからたまに首の後ろに所有印を付けるのを忘れない。
それなのにまさか鬼殺隊と密に関係している刀鍛冶の里で、俺の女だと分かっていながらこんな宣戦布告をして来る男に苛つきが止まらない。
この苛つきを助長させているのはほの花がその想いに気付きもしないで、ヘラヘラしながら俺にそれを言ってきたこと。
男心を理解しろと言ってもほの花には荷が重い。言ったところで気に病ませるだけだ。
だから言わないのに、悲しそうな顔をする彼女にますます苛つきが止まらない。
お前のためだろうが。
お前が気に病むから。
それなのに俺を責めるようなその瞳に腹が立って仕方ねぇ。
何のために"俺の女"と言う書を毎回送りつけていたと思うのだ。
どうせ使ってないとは思っていたが、それで男を引っ掛けて帰ってくるなんざ、許せねぇ。
使っていたならば許していた…かもしれないが、何も対策してねぇくせに男に気に入られて帰ってきたほの花に腹が立って仕方ない。
誰の女だと思ってんだよ。
"フラれたら面倒見てやる"だぁ?
そんなもん求婚だろうが。何故気づかねぇ。何故ヘラヘラ報告してきた。馬鹿なのか?いや、馬鹿か。
その男も不憫ではあるが、俺の立場から見たら"ザマァみろ"という言葉を贈ってやる。
コイツは俺の女だ。誰にも渡しやしねぇ。
あれほど残した所有印は何の役にも立たなかったということか。
それならあの時よりもっと付けてやるしかねぇ。
全身に刻みつけてやる。
俺の女だと言う証を。
俺は狂ったようにほの花の体に吸い付いて、そこに紅い華を散らしていった。