第29章 停戦協定※
噛み付くような口づけを受けると息をすることも許されない。
ぐちゅぐちゅと唾液が絡み合うといつも幸せな気分になるのに、今は宇髄さんに余裕がない。
性急に口づけをすると、すぐに着物の合わせ目から手を差し入れる彼にこの行為がただの口づけだけに止まらないことを意味していた。
「…ね、て、天元?まだ夜じゃない、よ?」
何とか口づけの合間に彼にそう問えば、冷たい瞳で見下ろされる。
いつもの彼のそれではなく、完全に怒っているときのそれ。
「…うるせぇ。」と苦しそうに呟くと、乱暴に帯を取り着物を開いた。
突然着物を開け広げられたことで空気が素肌に触れる。何が地雷だったのだろうと考えてもわからない私は、彼に許しを乞うこともままならない。
「お、こってるの…?ごめん、っね。」
「何に怒ってんのかわかんねぇくせに謝んの?」
「…え、だ、だって…じゃ、じゃあ教えて?ちゃんと謝りたいから…!」
「言ってもどうせわかんねぇよ。一生わかんねぇかもな。史上最強鈍感女には体に分らせるしかねぇ。誰の女なのか。」
──言ってもどうせわかんねぇよ
それは私に対して諦めている言葉。
確かに地雷もわからずに怒らせてしまってるのだからそう思われるのは仕方ない。
でも、そんな投げやりで"言っても無駄だろ"という発言はとても悲しい。
鈍いかもしれない。
察してあげられないかもしれない。
だとしても大切な恋人の思っていることは良いことも悪いことも共有したいと思ってる。
教えてもくれないなら私は何のためにいるの?
ただ宇髄さんの言うことを聞いてるだけ?
お飾りの恋人なんて絶対嫌なのに。
「っ、や、だぁ。お、しえてよ…!何で…っ」
「お前には体に教え込むしかねぇよ。折角送ってた書はどうした。何の役にも立ってねぇじゃねぇかよ。」
「そ、それとこれにどんな関係が、ある…の!」
「もう黙れ。」
宇髄さんはそのまま私の問いに答えてくれることはなかった。
代わりに熱い唇が首筋に吸い付いてきて紅い痕を残していく。
私に触れる手も唇もいつもと同じなのに、私を見る目は氷のように冷たかった。
それが知らない人みたいですごく悲しかった。