第29章 停戦協定※
早く見て欲しくて、抱き上げてくれてる宇髄さんを急かして部屋に向かったのだが、何故私はこの時急かしてしまったのだろうか。
いや、違う。
"何故舞扇を見せようと思ってしまったのだろうか"が正しい。
部屋に戻ると早々に荷物に入れっぱなしだった舞扇を取り出すと「じゃーん!」と宇髄さんに見せびらかした。
鋼鐡塚さんは私のために舞扇に綺麗な柄まで彫ってくれて、しかも金属で可愛い花の根付けまで付けてくれたのだ。
普段お洒落なんてあまり興味もないし、よく分からない。
宇髄さんがくれた髪飾りと耳飾りだけで十分だと思っていたけど、武器が可愛いのもなかなか嬉しいものだ。
「どれどれ…、って…随分と細けぇ柄彫ってあんな。お前が頼んだの?」
「え?頼むわけないじゃーん!鋼鐡塚さんっていう刀匠の人が患者さんだったんだけど、御礼にって色々装飾付けてくれたの。可愛いでしょ?」
「武器に可愛いって何だよって思ったけど、こう言うことな。確かに可愛いし、ほの花に似合ってる。」
「えへへ。この根付けもね!金属で作ってくれたの〜!天元がくれたこの花飾り見て似たようなやつ作ってくれたんだって!」
最初こそ興味津々で私の話を聞いてくれていたのに、だんだん「ふーん…」とちょっとだけ機嫌が悪くなってきたのは気のせい…?じゃない、ような…?
「…??でもね、鋼鐡塚さんって意地悪なんだよー。宇髄さんのこと物好きって言ってたし、最後なんてフラれたら面倒見てやるって言うの!フラれないもん!!」
「……へぇ、鋼鐡塚…ねぇ。下の名前は?」
「え?…あー、…んーと、あ!蛍ちゃん!鋼鐡塚蛍って鉄珍様が言ってた!可愛い名前だよね!」
名付け親だという鉄珍様がそう言っていたのを思い出して悪気なく素直に伝えたのに、宇髄さんの顔はどんどん怖くなっていて、冷や汗が止まらない。
え?私、何かした?
何か間違えた?
頭の中で必死に言動を振り返ってみるが、どれが地雷だったのか全く分からない私は本当に男心が分からない女だ。
どうしよう、と目を彷徨わせていると宇髄さんに手を引っ張られて再び彼の腕の中に引き寄せられた。
それと同時に息もできないほどの口づけが降ってくると必死にそれを受け入れた。