第29章 停戦協定※
久しぶりの休みだ。
ほの花とのんびり過ごしたかったのに、朝から瑠璃の部屋に行って盛大に眠りこけたので、やっとのこと戻ってきた彼女を堪能したくてずっと抱きしめていた。
できることならずっとこうしていたいとすら思うが、そうもいかない。
たまにの休みくらいこうやって過ごすのも悪くないと思っていたのに、それは数時間だった。
ほの花が舞扇を綺麗に整えてもらったから見てくれとせがまれて、"可愛い奴め"と思っていたのは束の間のこと。
見せられたそれは明らかに剣士のために整えたものではないことに気付いた。
いくら病を助けてもらったからといえ、どうでも良い女に丁寧な装飾を付けてやる必要はない。
それは明らかに俺がほの花に何か買ってやりたい、甘やかしたいと思う気持ちと同じだ。
ある意味、俺への宣戦布告と言って良い。
それなのに呑気に「見てみて〜」と見せてくるあたり、悪気はないだろうが煽られてる気がしてならない。
今すぐその舞扇を折ってやりたい気持ちを抑えて、ほの花に派手に口づけをした。
しかも、何だよ。
何の気無しに言ってきたが、"フラれたら面倒見てやる"だと?
上等じゃねぇか。
誰の女口説いてんだよ。
俺のいないのを良いことに好き勝手しやがって…。
歯が当たりそうなほど深く口付けると奥まった舌を千切れるんじゃないかと言うほどに吸い寄せた。
「んんっ!」と苦しそうに顔を歪ませるほの花だが、気にせず続ける。
そう言えば…裸を見られたと言っていたのも刀鍛冶の男だと言っていたが…。
嫌な予感がして唇を離して、ほの花を見下ろした。
「…て、天元…急にどしたの?」
「なぁ、風呂で鉢合わせした男ってそいつのこと?」
「え?…う、うん。そう、だけど…。」
その瞬間、プッツンと完全に理性が切れた。
ほの花が助かって良かったと思っていた。それは今も変わらない。
でも、俺にこんな宣戦布告してくるほどほの花に惚れてる男がいて、そいつが事故とは言え人工呼吸までして、こいつの裸を見たって言うなら話は別だ。
どう考えても許せねぇ。
不可抗力だとしても好意を抱いていた時点で、その行為は人工呼吸ではなくただの口づけになるからだ。