第29章 停戦協定※
「俺は大人しく寝てろって言ったよなぁ?」
宇髄さんの肩に顔を埋めながら、部屋に運ばれるが響く言葉は辛辣なもの。
どうやって返したら良いのか分からず唸っていると体を離されて、視線が絡み合う。
「なぁ、ほの花ちゃん?」
「ご、ごめ、んって…!」
「お前、昨日の今日でよく瑠璃と一緒に寝ようだなんて考えるよな。驚きしかねぇよ。」
「あ、そうなの!瑠璃さんたくさん喋ってくれて嬉しかった…!もっとお話したいなぁ!まだいてくれるんだよね?」
仲良くなれた…とまでは言わないけど、せっかく知り合えたのだからどうせならもう少し話してみたい。
雛鶴さん達のことももちろん大好きだけど、何となく…好意を向けられるより敵意を向けられている方が遠慮なく腹を割って話せるのは私だけだろうか。
初めから嫌われてるから、これ以上嫌われても別に大したことないのだ。
でも、そんな私の心模様など知る由がない宇髄さんは変な顔をして眉間に皺を寄せている。
「あ、いや…その…、なんかごめんなさい。心配してくれてるのに。」
「…お前の良いところはその底なしに優しいところだとは思うぜ。俺もそういうところもすげぇ好きだし。」
「…あ、ありがと…。」
「でもよ、その優しさは相手を苦しめることもあるんだ。関係的には瑠璃はお前と話すのはツラいかもしれねぇだろ。悪いことは言わねぇから深入りすんな。もうほの花が傷つくのを見るのは俺もツラいからよ。」
宇髄さんの言葉がズシリと心に響いた。
確かに…今の発言は瑠璃さんの想いを無視したものだ。
普通に考えたら、恋敵で勝者と敗者に分けるならば私は勝者になるわけで、今の発言はあまりに上から目線だ。
途端に恥ずかしくなって視線を下げると、すぐに宇髄さんが顎に手を当て顔を上に向けさせた。
「…落ち込むなって。お前は悪くねぇから。悪ぃとしたら毒飲んだことだけだ。気に病む必要はねぇから笑ってろ。」
「でも、私…いま、凄い上から目線だった…。恥ずかしい…。失礼なこと言って…。」
「分かってるから。お前に悪気がねぇことくらい。可愛い顔が台無しだぜ?笑っとけ。俺はお前の笑ってる顔が見てぇんだよ。」
ムニっと頬を横に引っ張られると嫌でも笑顔にさせられる。
引き攣っていてお世辞にも可愛いと言えないと思うが、私は精一杯の笑顔を作った。