第29章 停戦協定※
目が覚めると見慣れた天井なのに、横にいた人が見慣れなくてポケーっと見てしまった。
起き上がって本を読む様は綺麗で思わず見惚れてしまうが、何でこうなったのかイマイチ思い出せなくて首を傾げる。
「あら、起きたの?天元が起きたら戻ってこいって言ってたわよ。」
「うぇ、あ、は、はい。おはようございます。」
「もうお昼よ。あんたが此処で寝てるから天元が何度も様子見に来て鬱陶しかったわ。起きたなら早く部屋に戻って頂戴。」
のそのそと起き上がると、漸く事の次第が思い出されて、瑠璃さんに助けてもらったのだと気付く。
慌てて体を正すと正座をして頭を下げる。
「あ、あの…ありがとうございました。匿っていただき…。」
「あんた、狸寝入りしてたことバレてたわよ。」
「ええ…!?あ、あはは…。でも、ほ、本当に寝ちゃったし、嘘ついてない、ですよね?」
「それは天元がどう思うかよ。私は知らないわ。」
本を読みながら、こちらも一度も見る事なく淡々と話す瑠璃さんだけど、昨日までは話しかけるだけで邪険にされていたのだから随分進歩したと思う。
着ていた夜着を整えて、布団から出て立ちあがろうとすると「待って。」と呼び止められた。
「へ…?」
「薬、天元が持ってきてくれたからもらったの。…ありがと。本当にめちゃくちゃ不味い薬だったけど、朝より楽になったわ。」
「…あ、い、いえ!良かったです…!」
照れ臭そうに御礼を言ってくれる瑠璃さんに思わず顔を綻ばせてしまう。ここまでくるともう少しお話したいなぁと思って、再び座り直して彼女に向き合った時、勢いよく襖が開け放たれた。
そこにいたのは笑みを浮かべた愛おしい恋人…の筈なのだが、ビクッと肩を震わせてしまうのはあまりにその空気がドス黒いから。
「ほの花、テメェ!いつまで話してんだ!起きたんならとっとと戻ってこい!!いつまで待たせるつもりだ!」
「んえええっ?!な、な、なんで…!?」
「俺は耳が良いって言ってんだろうが!お前の声が聞こえたからに決まってんだろ!」
「私は早く帰りなさいって言ったわ。悪いけど関係ないからさっさと持ってけば?」
「ひょえ、瑠璃さぁん…!」
わかってはいたけど突然の裏切りに二人の顔を見比べて絶望するけど、結局は宇髄さんに抱き上げられてしまうのだった。