第29章 停戦協定※
「何でそこにいんの、ほの花は。」
「私が風邪ひいてお見舞いに来てくれたの。そしたらあなたに寝てろと言われてたのを思い出して一緒に寝ることにしたそうよ。」
「は?風邪ひいたのか。あとでほの花に薬もらえ。苦ぇから泣くなよ。」
「…あんた達同じこと言ってるわよ。」
何故こんなことをしなければいけないのだ。
ほの花の言い訳に付き合わされるなんて腹が立って仕方ないと言うのに、この子が此処にいるからか天元も普通に接してくれる。
全てはほの花次第。
この子が無事ならば、傷ついていないならば、天元は特に文句もないのだろう。
あんなにもムキになっていたのは私がほの花に酷い仕打ちをしたから。
それがなければ、此処まで拗れることはなかっただろう。
「おい、ほの花…」
「寝てるって言ってるでしょ。寝かせてあげなさいよ。」
「はぁ?狸寝入りだ、そんなもん!」
「此処で寝たいんですって。いいじゃない。もう傷つけたりしないからそこに置いとけば?」
この期に及んでほの花に危害を加えるつもりは毛頭ない。
協力するのはせめてものお詫びのつもりだ。
だから禊が済めばもう関係ない。
それなのに天元は私のことが信用できないのか制止したのにも関わらず、強引にほの花側の布団を捲る始末。
「ちょっと…!」
すると、捲った瞬間、深いため息を吐く天元を今度はまじまじと見つめた。
「…はぁ…この状況で寝るか、普通…。」
「…は?」
隣にいるほの花を慌てて見てみれば、スヤスヤと寝息を立てている。
この一瞬で眠りにつけるなんてある意味、強心臓だし、毒を飲むだけあって肝が据わってる。
そんなほの花を見て、天元は諦めたように立ち上がると私に目を向けた。
「仕方ねぇな…。じゃあ、頼む。薬持ってきてやるし、ちょうど粥を雛鶴が作ってたからそれも一緒に運ばせるわ。」
呆れるほどあっさりと出て行った天元に肩透かしを喰らった。
信用、してくれたということだろうか。
天元の愛の代わりに掴んだのは自分の恋人に手を出さないと言う信頼。
皮肉な結末に笑いが込み上げるが、隣で眠るほの花の顔があまりに可愛くて絆される前に寝てしまおうと布団をかぶったのだった。