第29章 停戦協定※
瑠璃さんの様子を見て、直ぐに戻るつもりがまさか体調不良で長居してしまった。
見たところただの風邪だろうけど、お粥と薬は必須だし、体温計も後から持ってこないと…!と思った矢先。
宇髄さんの叫び声が聞こえてきて、私は顔面蒼白だ。思ったよりも帰ってくるのが早くて心の中はざわめいている。
すぐバレてしまうと思ったが、まさか瑠璃さんの部屋にいるなんて思いもしないのか、ちっとも此処にやってこない宇髄さん。
ホッとしている私とは違い、目の前の瑠璃さんが普通に笑ってくれたことに驚いて目を見開いた。
私に笑いかけてくれることはもちろんないが、瑠璃さんと出会ってからというもの彼女のちゃんとした笑顔を見たことがなかった。
初めて見るそれは本当に可愛くて男だったら恋に落ちていたかもしれないと思った。
私に笑いかけてくれたわけではないのに、初めて見たそれに嬉しくてにんまりと笑顔を向けると、事態に気づいた瑠璃さんは顔を背けてしまった。
思った讃辞をそのまま伝えてみても取り合ってくれないけど、その耳が少し赤くなっていたことに私は益々好感が持てた。
しかし、早く出て行けと言ってくるが今戻れば私は宇髄さんに雷を落とされること間違いなし。
要するに怖いし、嫌だ。
少し考えた後、私は布団に座っている彼女を布団に押し込むとその隣に並んで横になった。
「ちょ、はぁ?!何してんの?!出て行きなさいよ!何一緒になって寝てんのよ!!馬鹿なの?!」
「今追い出されたら、私、宇髄さんの雷で監禁されちゃう!!悪いと思ってるなら協力してくださいよ!此処で一緒に寝てたことにしてください!」
「あんた…正気なの?私のこと憎くないわけ?」
「え?別に…?いいから口裏あわせてくださいよ?!裏切ったらもっと苦い薬飲ませますからね!!」
そう言うと狸寝入りをし始めた私を見て開いた口が塞がらない様子でジロジロと見ている瑠璃さん。
その数秒後に勢いよく開け放たれた襖の向こうでは怒り狂っている宇髄さんの気配を感じて、必死に寝たふりをした。
瑠璃さんは私のことを厄介者だと思っているはずなのに追い出すこともしないで、入ってきた宇髄さんの相手をしてくれた。
自分の保身のために彼女にそんなことを頼むなんて酷い女だと思うが、もっと酷いのは狸寝入りのつもりがすっかり寝入ってしまったことだろう。