第29章 停戦協定※
部屋に勝手に入ってきたほの花が薬師だということを逆手に取り、あれよこれよと偉そうに指示を出してきたが、今は反論する余裕もない。
だるい体と回らない頭によって、指示されたことを受け入れることしかできないのは悔しい。
だけど、少しだけ心地いいのは彼女が私のことを心配してくれていると言う事が…嬉しかったから。
「こっちの夜着は洗っておきますからゆっくり休んでください!あとでお粥と薬を持ってきます。」
「…いいわよ。私のことは放っておいて。寝れば治るわ。」
「駄目です!!私の薬はとっても苦いんです!!」
「……?何が言いたいのよ。」
「だから瑠璃さんにお仕置きで飲んでもらいます!とっても苦いんです!きっと泣いちゃいます!須磨さんはいつも涙ぐんでます。」
須磨と一緒にされたら困るが、お仕置きで薬飲ませるという発想が薬師ならではで呆れてしまう。
「お仕置きって…。まぁ…確かに悪いことをしたとは思ってるわ。でも、あんたのことは嫌いよ。」
「そうですか?私はそこまで嫌いじゃないです。」
その時、外から「ほの花ーーー!てめぇ、どこ行きやがったぁーーー!」という天元の雄叫びが聞こえてきて、目の前にいるほの花を顔を引き攣らせながら見つめた。
もしかして抜け出してきたのか?
こうなるのはわかっているではないか。
やはりこの子馬鹿なのかしら。
まさか此処にいるとは思ってもいないのだろう。ドタドタとした足音が聴こえてくるのにちっともこの部屋にたどり着かない天元に笑いが込み上げてきた。
「…ふっ…馬鹿ね。天元ったら。」
そんなに大切なら一日中、抱き上げて過ごせばいいじゃない。部屋に置いておくからこうなるのよ。
思わず嫌いな女の前で笑ってしまったので、口元を手で覆ってみるが、時すでに遅し。
キョトンとしてこちらを見ていたほの花の顔がみるみるうちに満面の笑みに変わっていくと、私は顔を背けた。
「瑠璃さん、笑うと可愛い〜…!もっと笑ってくださいよ〜。」
「…う、るさいわね!薬飲ませたいならさっさと持ってこれば?!」
「えー?もう一回!笑って?お願いします〜!」
猫撫で声でそう言ってくるほの花を睨みつけるが、ニヤニヤとした笑いを止めないので深いため息を吐くしかできなかった。