第29章 停戦協定※
朝起きると、酷い頭痛で顔を顰めた。
体は熱くて燃えるようだし、喉はカラカラに乾燥して咳が出る。
風邪をひいたのだろう。
ここ数日、眠りがずっと浅かったのも原因だ。
毒を飲めと脅しておきながら、飲んだら飲んだで何の罪もない女を殺してしまうかもしれない恐怖に苛まれていた。
ほの花のことは確かに嫌いだ。
嫉妬にまみれて今も好きにはなれない。
でも、悪いことをしたとは思っている。天元が惚れ込むだけあって、清らかな水のように無色透明なほの花。
少しの穢れもない様が余計に悔しかった。
自分だけが汚れているようで、あの子が笑うだけで惨めな気分になっていったけど、そんなのは完全なるやっかみだ。
あの子が私に何かしたわけではない。
天元との婚約関係だって、雛鶴達が同意していて円満に事が済んでる以上何も言えないのに、首を突っ込んだのは私の方。
天元はちゃんと面と向かって婚約解消をしてくれていたのに、置いていかれたことが悔しくて、消化できなくて、此処まで追いかけてきた。
自分だけがこんなに愛していたのだと認めるのが悔しかった。
だから天元にあんなにも愛されていたほの花に八つ当たりしたのだ。
羨ましくて羨ましくてたまらなかったから。
だるい体で起き上がると、そこには勿論誰もいない。
自分が体調崩したところで、あんな仕打ちをして騒ぎを起こしたのだ。誰も心配してやくれない。
此処にはたくさん人が住んでるのに、私はよそ者。
最初からお呼びでなかった。
そう考えると虚しくてたまらない。
そんな時に縁側の方から私を呼ぶ声が聞こえた。
その声は間違いなく隣の部屋に追いやったあの子。
許されない仕打ちをしてしまったと言うのに普通に部屋を訪れる彼女に驚きと同時に込み上げるものがあった。
自業自得なのに、この虚しい空間が心細いだなんて思っていた私に声をかけてくれるのがまさかの恋敵。
大嫌いなのにその声があまりに優しくて泣きそうになった。
嫌いよ。
馬鹿みたいに能天気で、嘘みたいにお人好しなあんたなんて大嫌い。
でも……だから
天元はあなたを選んだのね。
悔しくて、情けない。
私の愛する人が選んだ唯一無二のあなたの存在は眩しくてとても綺麗だった。