第6章 君思ふ、それは必然
何故覚えていたかと言うと唯一の縁談相手だったから。それ以上でもそれ以下でもない。
お父様は私に無理強いをしたことは一度もない。ただの一度だけ「ほの花に縁談の話がある」と言われて会った人が真田清貴という人だった。
しかし、その縁談の話が纏まることはなく、お父様からは何も聞かされていない。
一度会った時に背の丈が私とそう変わらなかったために"でかい女"は嫌だったのでは?と予測はついていたが、まさかこんなところで再会するとは。
「覚えてくれていて嬉しいよ。相変わらず君は美しい。」
「……え?ど、どうも…。」
相変わらず美しい?
そんな賛辞を彼から言われたことはないはず…。少なくとも私にその記憶はない。
こちらの印象は相変わらず"背丈が変わらないな"ということだけだ。
困惑しながら、同じように困った顔をしている正宗たちと顔を見合わせた。
「君たちはほの花の護衛だったね?あの時は…すまなかった。君の魅力に気付いていなかったんだ。」
「い、いえ…。」
「でも、これで分かったよ。やっぱり君が運命の人だったんだね。」
「へ…?!」
突然の運命論を話し出す彼に何も返せずにいる。何の話をしているのだ。
「あの頃は小さくて可愛らしい女性が好みだったんだ。でも、君ほど美しい女性はなかなかいなかったよ。本当に断るかどうか迷ったんだ。もう少し小さかったら間違いなく君とすぐにでも結婚していたよ。」
終わったことだった。
もう忘れていたし、いま再開するまで彼のことを思い出すこともなかった。
それなのに再び持ち出された上に、知りたくなかったことまでペラペラと話し出し、無駄に傷つけられたと思うのは私だけだろうか。
私の外見しか見てくれていない清貴さんの発言に悲しくなって、俯いた。
こんな時に脳裏に思い浮かぶのは宇髄さんの顔。自分から避けておきながら、彼の優しさに甘えたくなってしまうのは私の悪いところだ。
彼は私の師匠だが、三人の奥様たちの夫。
私が甘えていい立場ではない。