第29章 停戦協定※
でも、瑠璃さんがいるのは隣の部屋だ。
盗人みたいに壁に耳を当てれば、中で人の気配を感じたので庭に続く襖を静かに開けた。
廊下側から行けば誰かに見つかってしまうかもしれないからこう言う時は縁側伝いに行くのが得策だ。
部屋の前まで来ると「瑠璃さーん」と声をかける。
中には居るはずなのに、一向に開けようとしてくれないのはやはり私のことが嫌いだからだろう。
どうしようか考えあぐねていても、会うなら早くしないと宇髄さんが部屋に帰ってきてしまう。
しかも、元々は私の部屋なのだから遠慮する必要はない。
「入りますねぇ」と勝手に襖を開けるとそこに飛んできたのは枕で、私は受け取ることもできずに顔でそれを受け止めた。
「むぐっ!!っ、い、ったぁーい!何するんですかぁ!」
「何するんですかはこっちの台詞よ。勝手に入ってこないで…!早く出てってよ!」
辛辣な顔をこちらに向けてくる瑠璃さんにむぅっと頬を膨らませて抗議の意を表してみるが、その様子がおかしいと感じたのはすぐ後のこと。
顔がほんのり赤くて、少し肩で息をしている。それに加えてゴホッと咳をしているところを見ると風邪でもひいたのだろう。
私は歩み寄って無遠慮に額に手を当てると、すぐにその手を振り払われてしまうが、今度は腕を掴んだ。
「…な、何よ…!離して!」
「大丈夫ですか?風邪かもしれないですね。すぐお粥の準備してきますね。汗かいてるし、夜着も替えましょ!」
「な、っ…で、出て行ってよ…!あ、あんただって…毒、で…ツラいんでしょ?!情けなんてかけないでよ!」
顔を背けて、強がっている瑠璃さんだけど、流石に風邪ひいてるのを見てしまったら医療者としては黙っていられない。
「熱は…38度くらいですね。あとで体温計と薬も持ってきます。」
「ちょ、っと!聞いてんの?!」
「聞いてますけど、私は薬師なので病人を目の前にしたら放ってはおけませんよ。大人しく言うことを聞いてください。」
病人と言うだけあって、力が入らないのか文句を垂れていてもいつもの元気はない。
仕舞い込んであった新しい夜着を出すと、それを彼女に渡して着替えるように促す。
いつもならきっと怒って受け取ってくれることはないだろうけど、今日は大人しくそれを受け取ってくれた。