第28章 無欲と深愛※
── 瑠璃さんが初めての相手だったってほんと…?
言わなかったわけではない。
言えなかったわけでもない。
ただ普通に忘れていたのだ。
そう言われればそうだ。
俺の初めての性交の相手は瑠璃だった。
自分ですら忘れていてことをほの花が知っていたことに俺は柄にもなく動揺した。
知られたくなかった…とは言え、瑠璃からしたら言わない選択肢はないだろう。
悪いのはそれを忘れていた自分だ。
ほの花に溺れすぎていて、そんなことすら失念していた。
だから悲しそうに瑠璃との関係を聞くほの花に申し訳ないと思う反面、その感情が"嫉妬"だと分かればニヤける顔を隠すのに必死だ。
笑ってどうする。
喜んでどうする。
ほの花は悲しんでるんだぞ。
それなのにほの花が嫉妬するほど俺を好きだと言ってくれてるのだ。
嬉しくないわけがない。
どれだけ罵詈雑言を言われても平然としていたのに、初めての女だということで、毒を飲み干すほどに愛してくれていると分かっただけでも幸せで仕方ない。
伸ばされた手を引き寄せるとほの花の白い肢体が自分の腕の中に収まる。
いつも嫉妬丸出しなのは俺の方で、ほの花はそう言うのをひた隠しにする奴だ。
だからこそ嬉しかった。
やり方はまずいし、今後絶対にしないように約束させることは必須だけど、それでも嬉しくてたまらない。
「…耐性があったとしても毒なんて飲むもんじゃねぇ。況してやお前は耐性なかったんだから下手したら死んでた。もう二度とするな。分かったな?」
「うん…。ごめん、なさい。」
「無事だったから良いものを死んでたら元も子もねぇんだからな。」
「…ぅ、は、はぁい。」
助かったのはほの花が自分で機転を利かせて解毒剤を作ったからだ。
それを飲んでいなかったら今頃どうなっていたか。
俺は下手したら死体を発見していたことになる。
そんなことは考えたくもないが、そうなっていた可能性はかなり高い。
ほの花が薬師でなければ本当に危なかった。
運が良いとしか言いようがない。
不満そうな彼女の体が温かいことだけが俺を安心させた。