第28章 無欲と深愛※
「で?何が悔しかったわけ?」
食事を終えただろう宇髄さんが手桶を持って帰ってくると優しい口づけをしてくれた。あの時の様子を見るに彼の怒りは落ち着いていたようだったが、追及をしないわけではないらしい。
風邪のふりをしていたのはとうに見破られていて、「何で毒を飲んだのか」という質問をされた。
私が毒を飲んだ理由はただ一つ。
だけど、それを言うには少し気恥ずかしい。
「な、何がって…い、言わなきゃだめ?」
「はぁ?言いたくねぇの?」
嫉妬してつい毒を飲んだなんて無鉄砲にも程がある。後から考えてみたら物凄いことをしてしまったと自分ですら思った。
死んでたら元も子もないのだから。
「言いたくない…。」
言いたくないと布団をかぶって顔を見ないようにしても、すぐにそれを剥がされて宇髄さんの顔がお目見えする。
相変わらず、美丈夫だなぁなんて思う余裕はない。にこやかなその表情が恐怖に感じるのは私だけだと思うが、怖いものは怖い。
すると、何を思ったか夜着の帯を緩め始める宇髄さんに私は目を見開いた。
まさか本当に抱き潰されるのだろうか?
良いとは言ったのは自分なのに少しだけ冷や汗が出る。
「何もしねぇって。正宗がお湯持ってきてくれたからよ。体拭いてやる。今日は流石に風呂は入れてやれねぇからな。」
「あ…そ、そゆこと…?ありがと、ございます…」
「お前、俺が無理やり抱くとでも思ったんだろ?ったく、俺のことなんだと思ってんだよ。」
"性欲大魔神"とここまで出かかったが必死に耐えると彼のなすがままに夜着を脱がされる。
情交でもないのに裸を見られるのは恥ずかしいけど、仕方ない。
そのままうつ伏せになると湯気が出ている手桶に手拭いを付けて絞ってくれる宇髄さんを横目で見る。
しかし、背中に感じたのは手ぬぐいの感触ではなく、彼の指。
途端にビクッと肩を震わせると恐る恐る後ろを振り向いた。
「…何で俺が気付いたか教えてやろうか?」
「え…?」
「此処に湿疹出てるぜ。」
「え?!うそ…!」
流石に背中までは確認していなかった。
痒いわけではないため、恐らく毒が排出する時に湿疹として出ただけだろうが、まさかそれで気づかれたなんて思いもしなくて枕に顔を埋めた。