第28章 無欲と深愛※
ズタボロの膝掛けを壁から取ると宇髄さんの優しさがこぼれ落ちていくような気がして、それを慌てて掻き抱いた。
こんなことされて、私も許せない想いもある。
どれほど罵られようと、酷いことをされようと我慢できる。それは宇髄さんが私のことを変わらず愛してくれているからだ。
でも、物に罪はない。
許可もなしに人の部屋のものを切り裂くなんてありえない。いや、膝掛けを切り裂いて良いなんて許可はしないけども。
これはこれで許せない。
私だって怒りの感情はあるし、何でもかんでも許すわけじゃない。きっちりと償いはしてもらいたいとは思っている。
私はその膝掛けを胸に抱きしめたまま、居間に向かって歩き出した。何故だかわからないけど、先ほどまで這ってしか動けなかったのに、途端にスタスタ歩けるようになっている。
自分の中の怒りが体を動かしたのだろうか。
ひょっとしたら宇髄さんはもっと怒り狂って、瑠璃さんを殺してしまうかもしれない。
もちろん私だって膝掛けのことは許せない。
でも、毒に関しては喧嘩両成敗のようなもの。
私にも非があるのだから彼女だけが責められて、況してや殺されるなんて無念としか言いようがない。
だから止めた。
瑠璃さんの声がした時、ホッとした。宇髄さんに人殺しをさせたくないし、瑠璃さんにも死んでほしくないから。
これは私の我儘だ。
三文芝居と言われようと、人を傷つけたら謝るのが筋。物を傷つけたら弁償するのが筋だが、今回は蟠りを取るために同じものを買ってきてと頼むことで、ちゃんと瑠璃さんと仲直りがしたかった。
私なんかと仲良くなりたくないかもしれない。
でも、仲良くならずとも蟠りは解消したい。
人に怒鳴り散らすことをあまり経験したことがないから、宇髄さんなんて私が怒っているのを見ながらちょっと顔がにやけていたし、瑠璃さんもキョトンとしていた。
この怒りが芝居だというのを早々に見抜かれているのが恥ずかしくてたまらないが、もうやってしまったものは仕方ない。
半ば自暴自棄になりながらも、怒りを演じ切ると逃げるように部屋に帰った。
部屋に入った瞬間、恥ずかしさから布団の中に入り込んで羞恥に耐えなければならないなんて、私の計画にはないことだった。