第28章 無欲と深愛※
「宇髄様、お湯をお持ちしました。部屋に運びましょうか。」
夕飯を食べ終えると、正宗たちが手桶にお湯を溜めて持ってきてくれた。
風呂に入れてやりたいのは山々だが、どうせさっき此処まで歩いてきたのもかなり無理してきたに決まっているし、今頃布団の上でぼーっと項垂れているに決まっている。
「ああ。ありがとな。いや、いいわ。俺が持ってくからよ。」
それを受け取ると真っ直ぐ部屋に向かう。
今日の朝、帰ってきてからバタバタしていたし、瑠璃が来てから色々と考えることがあり過ぎた。
正解だったのかはわからないが、漸く一息つけると思うと顔がにやけてしまう。
手桶の湯を溢さないように部屋まで向かい、コソッと襖を開けてみると布団に横になって寝ているほの花が目に入る。
どうやら大人しく寝ていると決めたらしい。まぁ、此処で起きていたら俺の機嫌を損ねると思ったのかもしれない。
でも、何となく起きてる気がしたのでほの花が寝ている隣に座り込むと鼻を摘んでやった。
「むぐっ…な、な、なにーー?!」
「起きてんのバレバレだぞ。三文芝居女優め。」
「な、なんのこと…?はなしてよー!鼻痛いよー!」
ぱっちりと大きな目を開くと、綺麗な瞳と視線が絡む。しかし、目が合えば気まずそうに逸らすほの花。
俺にバレてることを悟ったことで、居心地が悪いのは分かるが、俺とてちゃんとほの花と話さないと気が済まないと言うもの。
「何だよ、さっきの三文芝居は。しかも俺は此処で寝てろと言ったよなぁ?」
「…なんのことかわからないよー。膝掛けビリビリにされて腹が立ったんだもん。」
「あれほど罵詈雑言言われてたくせに、そこはあんなに怒り狂うほどか?俺だってあんな怒ってるほの花見たことねぇけどな。」
そう。
ほの花は穏やかであんなに感情任せに人を怒鳴り散らすなんてことはない。
だからこそ違和感があったし、三文芝居だとすぐ分かった。
「…心配しなくても瑠璃を殺しやしねぇから安心しろよ。誰かさんが乱入してきて、その気が失せたわ。」
「…膝掛け…ビリビリ…。」
「わぁーったって。」
どうやら膝掛けを破られたことを怒っているのは嘘ではないらしくて、眉間に皺を寄せたほの花を優しく撫でてやった。