第28章 無欲と深愛※
突然、乱入してきたかと思うと、そう言えばクナイでズタボロにしてしまった膝掛けがあったな…と私も忘れていた事案を持ち出して怒り狂っている。
いや、…三文芝居だが。
だけど、おそらく私を…助けようとしてくれてる。天元に殺されそうだったところを。
その証拠に既に天元は笑いすら浮かべていて先ほどの殺気はどこへやら。
「…は、はぁ?破ったのは悪かったわ。弁償すればいいんでしょ…。」
「だーめーでーす!!私がこの色が好きだから天元が買ってきてくれたんです!なかなか売ってない色なんです!だから同じ色のやつ買ってこないと許しませんからね!じゃあ、おやすみなさい!」
「え…、ちょ、ちょっと…!」
やはり助けに来てくれたのではないのかもしれない。
文句だけ言うとさっさと部屋に戻っていくほの花を見送るが、あの子がいなくなっては元の修羅場に戻るだけではないか。
誰も口を挟めないまま嵐のように去っていったのほの花に誰もが呆気に取られていたのは間違いはないが、私は姿勢を整えて覚悟を決めた。
「……ったく、アイツ…おとなしく寝てろって言ったのによ。…はぁ…。」
あの子が出て行った方を見てため息を吐くと、再びこちらを向いた天元の顔は先ほどの顔とは違い、穏やかだった。
「…許せってよ。お前のこと。」
「…え、…は、はい?」
「ほの花がお前のこと許せってさ。そうじゃなけりゃ、此処に来てあんな三文芝居するかよ。アイツは人前で俺のことを名前で呼んだりしねぇんだ。それなのに呼んだってことは…おねだりしてんだよ。お前を許せってな。」
あれが三文芝居だと言うことは私ですら分かっていたが、その意図までは汲み取ることはできない。
それがわかるのは天元だけなのだろう。
そしてほの花も…。
もう天元が私のことを殺さないって分かってたから部屋に戻ったのだろう。
この二人にしか分からない合図でもあったのだろうか。全く分からなかった。
一つだけわかるのはこの二人がお互いを思いやっていて、他の人間が入る隙間は少しもないのだと言う事実だけ。
本当はもっと早く気付いていた。
でも、気付きたくなかったから。
あの子に負けたということを認めたくなかった。
私の自尊心の高さが邪魔をしたのだ。