第28章 無欲と深愛※
時間の問題だとは思っていた。
ほの花が倒れたと聞いて、真っ先に私を疑っていた天元。
朝はほの花が咄嗟に庇ってくれたようなものだが、それに納得していたとはとても思えない。
私の胸ぐらを掴み上げた天元の瞳は怒りで満ち溢れていて、恐怖すら感じた。
きっと…私のことを殺す勢いで憎かったのだろう。
でも、まさか倒れるなんて思いもしなかった。
毒を飲んだのは三日前で、普通ならば…死んでいる筈。
それなのにスタスタと歩いていたほの花に私は毒に対する免疫があったのだと信じて疑わなかった。
飲ませてしまったという自責の念もあったのは間違いなくて、私は平気そうな彼女を見て随分とホッとしていたのだ。
だから明け方に天元の大きな声が響き渡るのを聞きつけて、部屋に向かった時驚愕した。
そこにいたのは顔面蒼白なのに玉のように汗を垂らし、息苦しそうにしているほの花。
即効性があるわけではない。でも、その毒は翌日には効いてくる筈。
それなのに今更、こんな苦しんでいるのは毒のせいじゃない。きっとそうよ。
言い訳を頭の中で考えながらも、彼女に近づいてみるとその場で天元に胸ぐらを掴み上げられた。
その時の天元は私を殺しそうなほどの勢いで、初めて彼に対して恐怖心を抱いた。
なんだかんだで私を無碍にできないと思っていた。自分のせいでほの花が私に罵詈雑言を吐かれていると自責の念で苦しめばいいと思っている筈だと。
それなのにそんなことをすっ飛ばして、もう許さないと表情が訴えていた。
だからいつかは呼び出されると思っていたし、覚悟はできている。
私は彼の隣に座ると口を開いた。
「…話って?」
「…聞かれる前に心当たりがあるなら先に言え。」
「ああ…、ほの花に毒を飲ませたこと?」
その瞬間、再び天元に胸ぐらを掴まれて壁に押し付けられた。
背中への衝撃なんて気にもしてくれない。力任せにされたそれのせいで背中はじんじんと痛い。
「天元様!」
「お、落ち着いてくださいぃ!」
雛鶴と須磨が必死に止めようと試みるが、私の発言を噛み締めるように理解していったようで、目を見開いてこちらを刺すような視線を向けた。