第28章 無欲と深愛※
ほの花を部屋に置いて居間に向かうと、既に食事を終えた正宗たちが食器を持って出て来た。
「あ、宇髄様!お先に頂戴しました。」
「ああ、気にすんな。ほの花に薬飲ませてまた寝かせて来た。体拭いてやりてぇからあとでお湯頼むわ。」
「承知しました。お食事が終わる頃に持っていきますね。」
こういう時、男同士ならば殴り合って終わりという簡単な解決法があるが、今から対峙しようとするのは女。
殴ってしまいそうな気もしないでもないが、そんなことしたら後からほの花にこっぴどく叱られるだろう。
アイツは女に手をあげるということを好まないのでそんなことしたら間違いなく、俺が怒られるに違いない。
居間に入ると雛鶴たちと共に食器を片付け始めていた瑠璃がこちらを見て固まった。
そんな反応をするということはやはりやましいことがあるのだろう。
「天元様!ほの花さん、寝ましたか?お味噌汁を温め直しますので待っててくださいね!」
まきをが鍋を持って台所に向かうのを見送ると、一緒に今を出て行こうとする瑠璃の手を掴んだ。
(…逃がしやしねぇ。)
聞きたいことが山ほどある。
逃げるならばそれを話してからにしてもらわないと永遠に謎は解けない。
「何処行くんだよ。お前に話があるんだ。座れ。」
「………。」
何も発しない瑠璃は既に言い逃れはできないと悟っているような気もした。
だが、心のどこかで勘違いだと思いたい自分もいる。
自分の恋人を傷つけたのが自分の元許嫁なんて申し訳なさすぎて目も当てられない。
瑠璃のことを俺がもっと早く対処していればこんなことにならなかったかもしれない。
あれほどの罵詈雑言も言われなかっただろう。
考えれば考えるほどほの花に申し訳がない。
俺の分だけ残してくれてあった食事の前に座るとその隣に座るように促す。いつもは無遠慮にそこに座りほの花を押しのけていたと言うのに今日は迷いに迷って、やっとのこと座ってくれた様子。
確証はないが、確信はある。
お前は、何らかの形でほの花がこうなった理由を知っているはずだ。