第28章 無欲と深愛※
風邪だとしきりに言うほの花だけど、風邪薬の新薬が効いたというだけでは俺を納得させるのは無理だ。
「…新薬作るなら前もって作っとけよ。何で風邪ひいた時に作るんだよ。」
「急に、思いついちゃったから…。ごめんね。」
「…へぇ、なるほどねぇ。じゃあ、残った薬はまた常備薬の箱に入れとけばいいな。一匙ずつしか飲まねぇんだろ?皿いっぱいにあるしな。」
「こ、これは…!治験段階だから…!まだ駄目…!!」
嘘をついてんのはバレバレなんだが、必死に取り繕うほの花に誰かを庇っているのは一目瞭然。
目を泳がせながらあくまで風邪だと言いきるが、納得などできるわけがない。
「…ふーん?」
「そ、そうなのです!あ、薬飲まないと!」
そう言うと薬皿に入った粉薬を一匙口に含むほの花。苦いのか変な顔をしているので、置いてあった水を差し出すとそれを勢いよく飲み出す。
全部飲み干しても尚、苦味が口内に広がる感覚に顔を歪ませたままだ。
「…に、にが…。」
「良薬口に苦しってな。お前の薬の腕前はよく知ってっからよ。我慢しろ。」
「…う、あ、ありがと…。あの、天元も…ごはん、食べてきていいよ?私、ちゃんと寝てるから…。」
これ以上追及されるのは困ると感じたようで、今度は追い出そうとしてくるほの花。
いや、追い出そうとしているわけではないと思うが、兎に角話したくないのだろう。
ならば、その食事に来るだろう張本人に聞いてやればいいだけのこと。
「大人しく寝てろよ?いい子にしてたら豆大福も二十個買ってやる。」
「…三十個……。」
「お前さ、食いモンなら遠慮なく強請るよな。もっと他のモンもねだれ。病み上がりに豆大福を三十個も食べたがるのはお前くらいだぞ。」
しかし、そう苦言を呈しても自分の体のことを詮索されることのがまずいと思ったようで、言い返すこともせずに此方を見上げるほの花。
そんな彼女の体を抱き寄せるとゆっくりと布団に横たえる。
「…まだ熱もあるんだからよ。風邪で死ぬことだってあるんだ。しっかり休め。食ったら戻ってくるから。」
見上げる瞳は虚ろではなく、綺麗な瞳で俺を射抜いている。
その目が訴えているのは一体何なのか。この時点では何とも言えなかった。