第28章 無欲と深愛※
腹が減ったと言うほの花を窘めながらやんややんや言っていると突然、啜り泣く声が聞こえてきた。
声のする方に顔を向ければ三人の元嫁たちの瞳から溜まっていた涙がこぼれ落ちている。
泣き虫の須磨だけでなくまきをと雛鶴まで号泣していることで俺とほの花は固まって視線を合わせた。
「うわぁーーーん!!ほの花さぁん!良かった、良かったですよぉ〜!!」
「本当…!本当に!!あまりに突然だったから心配してたんですよ!!」
「天元様が深刻なお顔していらっしゃったので、本当に心配してたんです…!何か良からぬことが起きているのかと…!」
夕食の美味そうな匂いの中に不釣り合いな泣き声は小さな台所に響いて俺たちに優しい空気を降り注ぐ。
しかし、言葉を聞いてうっかり失念していたことが再び頭に呼び起こされる。
そうだ。
ほの花のこの体調不良の原因がまだ分からない今、だいぶ回復しているからと言って手放しに喜ぶことはできない。
いや、回復したことは喜ばしいことだ。
それに関しては嬉しいと言う言葉以外のものは持ち合わせていない。
だが、何故こんなことになった?
碌にほの花と話をすることもできていないし、腹が減ったと甘えるものだからそれに気を取られていた。
「…ごめん、なさい。心配かけて…。風邪を拗らせちゃっていたみたいで…!でも、もう大丈夫です!新薬を作って飲んだらすぐ良くなりました!」
「そうなんですかぁ?良かったですぅ〜!でも、まだ無理しないでくださいねぇ?」
「須磨の言う通りです!もう天元様も帰ってきたことだし、甘えてゆっくりしてくださいね?」
「あ、おにぎりですね!お粥とおにぎり少しずつ作っておきますのでお部屋でお待ちください。」
「二十九個…」と小さな声で呟くほの花を抱き直すと、それを頼み部屋に一旦戻ろうと促す。
腹が減ってるのは間違いないらしく、後ろ髪を引かれように後ろを何度も見ながら俺に掴まっていた。
「回復してきたとは言え病人に変わりねぇんだからよ。養生しろ。な?」
それにまだ聞かないといけねぇことが山ほどある。
覚悟しとけよ?ほの花。