第28章 無欲と深愛※
「お腹すいたぁぁ…おなか、おなか…」
「わぁーった、わぁーった。」
お腹が空くと人間見境がなくなるのは本当で私は宇髄さんに此処ぞとばかりに文句を垂れる。
目が覚めると体のだるさが嘘みたいに良くなっていて、流石に自分の閃きに内心拍手喝采だ。
昨日の夜、温室に向かって良かった。
あのまま調合に気づかなければ、今頃まだ布団で魘されいるか…下手したら死んでいただろう。
そう考えると私がしたことはあながち間違いではない。
暖かい腕が私を抱き上げてくれているだけで、安心感からいつもより甘えたくなってしまう。風邪をひいた日に人恋しくなるようなものだとは思うが、その温もりを手放したくなくて彼の首に手を回す。
向かう先は台所。
──トントントンという包丁の音が聴こえてくる。
味噌のいい匂いがするのはお味噌汁だろうか。
香ばしい匂いは焼き魚だ。
昨日の夜から何も食べてないのだから"わたし的"にはお腹と背中がくっつくのは時間の問題だ。
「おーい、コイツに粥作ってくんねぇか?」
「え!?鰻じゃないの?!」
「だーかーらー!!病人がンなモン食えるか!消化にいいモン食えっつーの!」
突然そんなやりとりをしながら入ってきた私たちを驚いたように見つめる三人の美女、基元奥様たち。
目を見開いたまま此方を見つめていたかと思うと、三人ともその大きな瞳に涙が溜まっていき、今度は此方が度肝を抜かれる。
「え、ど、どうした、んですか?ご、ごめんなさい!鰻はやめます!冗談でした!可能でしたらおにぎりを三十個ほどお願いしたいです!」
「食い過ぎたっつーの!!丸一日寝てたんだぞ?!まだ微熱もあるんだから粥を食えって言ってんだろ?!」
「おにぎりがいいですーー!二十九個でもいいです!!」
「何処に気遣ってんだよ!阿呆か?!阿呆なのか?!」
お腹が空き過ぎて気が立っている私はいつも言わないような我儘を言っている自覚はあるのだが、腹の虫が煩すぎて我慢できない。
何ならそのお腹の音を隠すためにわーわーと御託を並べていると言っても間違いはない。