第28章 無欲と深愛※
何時間眠りこけていたか分からないが、ほの花の声で目が覚めた。
うなされているようなそれに微睡から一気に覚醒し、腕の中の彼女を引き寄せると眉間に皺を寄せて俺を見ていた。
「うー…天元…、おはよ〜…。」
「どうした?大丈夫か?熱は…?体は?!どこか痛いところないか?」
「痛いところないけど……お腹が…。」
「腹…?」
慌てて腹を摩ってやるが、痛みならば痛み止めが先だろう。
しかし、少しでも良くなるように…と必死に撫でてやる。
「…ち、違うの…!お腹が…。」
「何が違うんだよ。痛ぇんだろ?無理すんな。」
「そ、そうじゃなくて…お腹が…。」
「???」
「……空いた…。」
──キュルルル
何という良き時機に鳴る腹の虫だ。
バツが悪そうに顔を布団に隠すほの花だが、腹が減るくらいなら体調は良くなっているのは間違いない。
途端に笑いが込み上げてきて肩を震わせる。
「っ、ハハッ…、何だよ。腹減ったのか。飯食うか。俺も腹減ったし、一緒に食おうぜ?」
「うー…!恥ずかしいぃぃぃ…!天元がちっとも離してくれないからお腹空いて死にそうだった…!!もう夕方なのに四時間も空腹を我慢してたの!!!」
「あー、そっかそっか。悪ぃことしたな。よしよし。」
どうやら俺はまたほの花を抱きしめたまま離さなかったらしくて、真っ赤な顔をして苦言を呈する彼女は不満を露わにしていて笑いが止まらない。
顔色はすっかり良くなっていて、まだ少しだけ微熱がありそうだが朝の状態ほどではない。
布団にごと抱きしめてやるけど、ちっともこちらを見ようともしないので無理やりぐるりと向きを変えてやる。
すると、耳まで赤くして涙目のほの花が俯いたまま俺の胸に顔を埋めた。
「体は大丈夫か?」
「空腹で死にそう。鰻食べに行く。」
「そっちじゃねぇし、病み上がりで鰻食おうとすんな!体調は?!ってことだろ!馬鹿が。」
「体調は大丈夫だけどお腹すいた。お腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいた…。」
余程お腹が空いているのだろう。
もう羞恥心を捨てて、腹が減ったと駄々を捏ねるほの花が何だか子どものように可愛い。
俺はそんなほの花を抱き上げるとそろそろ夕飯の支度をしているだろう台所に向かった。