第28章 無欲と深愛※
懇願されたのは薬の調合。
真剣な表情のほの花にその薬がどうしても必要なのだと言うことだけが伝わる。
試してみたいから作るという悠長な状況ではない。恐らくそれを飲まないといけない危機的な状況。
震える手で何とか調合を終えるとひと匙それを服用して再び眠りにつく。
本来ならばすぐに胡蝶のところに連れて行きたいところだが、どこか俺は落ち着いていた。
それを飲めば助かるような気がしていたのだ。
ほの花は超が付くほどの薬馬鹿。
そんな彼女が必死に薬草を取りに行き、調合をしたいと言うのだから勝算なくしてその行動はできない筈。
何よりほの花の薬師としての能力を信じている。
俺はうかうかと眠ることもできずに隣で荒い息を吐きながら、寝ているほの花を眺めたまま横になるだけで精一杯。
「…頑張れよ、ほの花。」
薬が効いてくるのは大体三十分くらいだろう。
それを過ぎても症状が緩和しなければすぐにでも胡蝶のところに連れて行く。
俺は壁にかけてある時計に目をやりながらひたすら待つ。
カチコチという秒針が進む音よりも自分の鼓動の方が煩い。
抱きしめる体にもつい力が入ってしまい、必死に己を制して弛めるが体は緊張で固まっている。
万が一のことなんて考えたくないが、このままほの花が……
やめろ。そんなことあり得ない。
そんなことになれば俺は間違いなくアイツを殺してしまう。
脳裏に浮かんだ考えを払拭させるように頭を振ると再び時計に目を移す。
まだ五分。
三十分というのはこれほど長かったろうか?
地獄行きのような気分で時間が経つのを待っていたが、十五分ほどして彼女の体が少しだけ弛緩したような気がした。
体を離して見てみれば、荒かった呼吸は少しだけ落ち着いていて、熱も少し下がったような気がした。
「…薬が効いてるのか?」
明らかに表情も苦しそうなものではなく、穏やかなものに変わってきていたことで俺の体も弛緩していくのがわかる。
そうすると途端にホッとして彼女を腕の中に抱きしめたまま眠気に襲われた。
(…死んだら…ぶっ殺すからな…。ほの花)
いつだったかもほの花に言った言葉。
それは死ぬなんて許さないという師匠命令だ。