第28章 無欲と深愛※
宇髄さんはひょっとしたら気づいているのかもしれない。
でも、敢えて言わないと言うことはまだ確証がないからだ。
何故そう思ったか?
それは確実に勘だけども…
彼の表情がそう言っている。
"これは風邪じゃねぇだろ"って。
宇髄さんのことが好きだから。
ずっと見てきたから分かる。
疑われていることも
その疑いの先にいる瑠璃さんの存在のことも。
だけど今更翻すことなんてできないけど、取り繕うことも体的に無理だ。
見上げた先の宇髄さんは呆れたような表情をしている。肩で息をしながらも彼にお願いをしなければ始まらない。
「…後ろから支えてくれる?座ってるとクラクラする…。」
「いいけど、お前本当に大丈夫かよ。何か変じゃねぇか?胡蝶のところ連れて行くぜ?」
「これ作って飲んで症状が改善しなければしのぶさんのところ行く。ごめんね…?」
試していないモノはあと一つ。
これ以上はお手上げだ。
だけど、しのぶさんのところに行ったところでそれは同じこと。
血液検査をしたところで既に三日が経っているなら結果が不鮮明に出る可能性のが高い。
その後は結局対症療法しかない。
あらゆることを想定して実行してきた。
血液検査をするならば最初の時点でしなければ意味がないことくらいわかっていた。
これは瑠璃さんのせいじゃない。
私の落ち度だ。
負けたくなかったから。本当のところは彼女は飲ませるつもりなどなかった筈だ。
だけど、私が自ら飲んだ。
何を言っても認めてくれない瑠璃さんだったけど、別にそれは良かった。我慢できた。
我慢できなかったのは宇髄さんの初めての相手というのが悔しくて、口車に乗せられた。
彼女に煽られて、みすみすそれに乗った。
宇髄さんはもう何も言わずに体を支えてくれる。背中には彼の温もりが伝わってきてじんわりと体を温めてくれる。
震える手に何とか力を入れて薬を調合していると大好きな手が私の頭を撫でてくれた。
「…ほの花、早く治したら鰻食べに連れて行ってやるからよ。」
「その後に…あんみつも食べたいです…」
「はいはい。何でもご馳走します。可愛い婚約者の頼みだ。」
こんな状況でも彼がふざけたような態度を取るのはきっと私のことを信頼してくれてるから。
薬師としても。
婚約者としても。