第28章 無欲と深愛※
「…分かった。支えてやるから早く作って早く寝ろ。いいな?」
「…うん。」
ホッとしたような表情のほの花だが、大丈夫なのだろうか。今はどんな状態なのだ。まさか命に別状があるような状態じゃねぇだろうな?
「雛鶴が茶持ってきてたぜ。飲むか?もう冷めちまってるけど飲みやすいと思うからよ。」
そう言えと、コクンと頷き微笑むほの花が儚げで怖くなった。
せっかく一ヶ月も任務で離れていて漸く会えたと言うのにこんなことになって、責任を感じる。
ほの花は"気にするな"と言うだろうが、こうなった一因を担ったのは間違いなく俺だ。
疼くまるほの花の華奢な背中を自分の腕にもたれさせると雛鶴が持ってきてくれていた湯呑みを渡す。
しかし、それを持とうにも手が震えてしまっている彼女にも焦りの感情が見え隠れする。
俺は湯呑みを持たせようとしていたのを止め、中身を口に流し込むとそのままほの花に口付けた。
風邪ならば怒られるところだが、俺はそうじゃないと確信があった。それにこちとら丈夫だ。
移されるようなことはないと断言できる。
全ての茶を口移しで飲ませると端から漏れ出たお茶を舐めとり顔を離すが、そこにいたのは理由はどうであれ真っ赤な顔をした可愛いほの花がいて、無意識に口角が上がる。
「な、う、うつっちゃう、よ…!」
「顔が真っ赤だぜ?可愛いけど早く作って早く寝ろ。悪化するだろ。」
「…わ、わかったよぉ…。」
調合台まで連れて行ってやると、手の中には昨日握りしめていた薬草が再び握られている。枕元に置いてあったのに気付いたようだ。
しかし、台の前に座らせてもこちらを見上げて甘えるような視線を向けてくるほの花に俺の胸が高鳴る。
(…おいおい、相手は病人だ。自重しろよ、俺。)
恋人になってから月日も経っているのに毎日胸が高鳴るようなことが何度もあることに驚きを隠せない。
「どうした?」
動揺しているのを悟られないように優しく髪に触れると熱った艶かしい表情でその手を掴まれた。
病人だと言うのにその一挙一動にこれほどまでに心が乱されるのは俺の一生でほの花だけだろうな。