第28章 無欲と深愛※
「…お願い?とりあえず横になってからだ。」
願いとやらを聞いてやるのは良いとして、少しでも早く安静にしてほしい俺が抱き上げようとするのにそれを頑なに拒むほの花。
「…どうした。酷い熱だぞ?夜着も変えてやるから。」
「…く、すり…つくるから…。」
「はぁ?!何言ってんだよ!解熱剤はそこにあるだろ?!それ飲めば良いだろうが!」
この期に及んで薬を作るだと?
解熱剤も風邪薬も薬箱にある。
目眩がするならその薬も確かあった筈だ。
それなのに調合台を見つめたまま、動こうとしないほの花。
「…何の薬作る気だよ。お前。…言えよ。」
「…新薬…。じ、ぶんが風邪、ひいてる、とき、っ、しか…試せないもん…。おねがい…。」
それはとても尤もらしい理由だ。
薬師が自分で作った薬を人に試す前に自分で試すのはよくあることのようでほの花は他にも避妊薬とかを飲んでいるのを知っている。
だが、こんな状態のほの花に薬を調合させるなんて恋人としては認めたくない。
何故今なのだ?
考えたくもないのに思い浮かぶのはその薬が本当に風邪薬なのかということ。
本当にほの花は風邪をひいているかということ。
「…とりあえず夜着を変えろ。このままじゃ、余計に悪化する。」
俺は箪笥からほの花の夜着をもう一枚出すと、手をついたまま蹲っている彼女の前に跪いた。
余程体がだるいのか少しも動かないので、帯を取り払うとそのままの状態で着替えをさせることにする。
ベタベタになった夜着をゆっくりと肩から滑り落とせばほの花の白い肌がお目見えする…
筈だった。
しかし、彼女の背中見えたのは赤い湿疹。
それが明らかに風邪の症状ではないことくらい自分にも分かった。
背中に出ていれば本人は気づいてないのだろう。
先ほど着替えをした時は布団の上で横になったままだったので気づかなかったようだ。
「…てんげん…?」
固まっていた俺を不思議そうに見上げほの花だが、それを見てしまっては状況が何となく見えてきてしまう。
頑なに薬を調合すると言うほの花の態度も納得がいく。
そして、それを許さなければいけないという事実に拳を握りしめることしかできなかった。