第28章 無欲と深愛※
「出かけた後は?変な様子はなかったか。」
「…特に…。でも、少しだけ瑠璃さんのほの花さんへの態度が柔らかくなった気もします。」
まきをがそんなことを言えば、雛鶴も須磨もコクン頷き肯定する。
打ち解けたと言うことならば、それはそれで良い。
ほの花なら懐柔させたと言われれば驚くこともない。
それほどまでに"人たらし"な奴だということは分かっていたことだから。
だが、懐柔した理由が分からない。
何が何でも許さない、殺してやるとまで言っていた女が急に懐柔されるか?
いくらなんでもほの花だってそこまで急激な関係の変化を望んでいたとは思えない。
「…そうか。とりあえずほの花には俺がついてるからお前らももう休め。」
「天元様もゆっくりお休みになってくださいね。日中の看病なら私たちが代わりますので。」
「ありがとな。でも、一緒にいてぇし、俺の女のことだから気にすんな。」
外はすっかり陽が差していて朝になっている。
明け方にみんなを起こしてしまったのは申し訳なかったが、おかげで助かった。
「おやすみなさい」と言って出て行く三人を見送るとほの花の隣に横になる。
体を引き寄せて腕の中に閉じ込めると、心地のいい重さが腕にかかる。
これを感じると此処に帰ってきたと思わされて、酷く安心するのだ。
心配でたまらないが、彼女の存在を確認できただけで瞼が急に重くなってきた。
もう一度抱きしめ直すと、微睡へと意識を手放した。
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微睡から引き戻されたのは数時間後のこと。
腕の中にいる筈のほの花が居なくて、勢いよく体を起こすと布団から出た位置で疼くまる彼女が目に入った。
「っ、ほの花!」
触れた体は燃えるように熱いのに、変えた筈の夜着は汗でベタベタに濡れてしまっていた。
支えるように肩を抱くと、ゆっくりと此方を見上げるほの花の瞳は虚ろだ。
「…何してんだよ。寝てないと駄目だろ?」
肩で息をしていて、言葉を紡ぐこともツラそうなほの花を抱き上げようとするが、手を掴まれて首を振る。
「…ほの花?」
「て、んげん…、おねがい、が…っ、ある、の…。」
苦しそうにこぼれ落ちる言葉はか細くて、耳が良くなければ聞き取れないほどだ。