第28章 無欲と深愛※
まきをと須磨を窘めている間に事切れたかのように再びほの花から寝息が聴こえて来た。
体は熱に侵されているというのに、顔色は酷く青白い。
隣に座り込み、頬を撫でるとお茶を持って雛鶴が帰ってきた。
「天元様、お戻りでしたか…。あれ…、ほの花さん寝てしまわれましたか?お茶を持ってきたのですが…。」
「あとで飲ませるからそこに置いといてくれ。」
普段のほの花なら会話の途中で寝るなんてことはない。
間違いなく意識を失ったのだ。
荒い息を吐きながら、顔を歪ませるほの花はいつものように笑顔を向けてはくれない。
それどころかこの体の状態に冷や汗が流れ落ちる。
「…ほの花さん、突然体調が悪くなったと言っていたんですけど…、いま思えば…、汗をよく拭っていらっしゃいました。」
「…汗?」
ほの花は暑がりではない。どちらかと言えば寒がりだ。
夏を共に過ごしたことはないが、まだ汗が噴き出すほどの暑さではない。
それなのに汗をかくというのは少しだけおかしい。
「…そう言われれば…、ほの花さん、ちょっと顔色も悪かった気がします!」
「あ…!確かに汗かいてましたー!でも、体調が悪いなんて思いもしませんでしたぁ…ごめんなさい。天元様…。」
しょぼんと項垂れる元嫁達の顔を上げさせると再びほの花の顔を見る。
こんなに頬に触れているというのに身動ぐこともしない。
「…風邪が悪化した…ってことか?」
「えー?違うんですか?」
須磨が首を傾げてキョトンとしているが、腑に落ちないのだ。
風邪ならば風邪薬を飲めばいいだけのこと。
常備薬の中にそれが入っているのは周知の事実。
わざわざ温室に薬草を取りに行く理由は何だ?
それが必要なほどの何かがあったからだ。
「…瑠璃と…ほの花は何かあったか?」
「あの、関係あるかは分からないんですけど…、ほの花さんとお出かけされたみたいです。でも、その時は私たちに贈り物を買うために付き合ってもらったと…ほの花さんは言っていました。」
瑠璃とほの花が出かけた?
ほの花を毛嫌いしていたのに?
人の懐に入り込むのが上手いほの花だから考えられなくもないが、それだけでは何かあったかどうかも分からない。