第28章 無欲と深愛※
布団の上で、まな板の鯉状態であれよあれよと体を拭かれ、新しい夜着に着替えさせられる。
私がびしょ濡れにしてしまった布団は取り払われて、隆元と大進が持ってきてくれた新しい物に寝かされるとボーッと天井を見る。
「ほの花さん、もう少ししたら天元様が来ると思います。温かいお茶を淹れてきますのでちょっと待っててくださいね。」
雛鶴さんが出て行くとまきをさんが髪を櫛でといてくれて、須磨さんは話し相手になってくれた。
だけど、熱と息苦しさで碌に返答もできないせいで須磨さんがまたまきをさんに怒られてしまう。
「あんた!少しは黙ったらどう?!ほの花さんは体がつらいんだから静かにしなさいよ!」
「だ、だってぇ、ほの花さん、退屈かなぁって思ってんですものぉーー!ごめんなさいーー!」
「あ、だ、大丈夫、ですから…、あ、あはは…」
二人の喧嘩が目の前で始まってしまったけど、止めることもできず、傍観していると慌てたように宇髄さんが部屋に入ってきた。
「おいおい、お前ら何してんの。静かにしてやれよ。」
「天元様ぁー!まきをさんがー!」
「須磨がほの花さんの安眠を妨げるからです!!」
ため息を吐きながらも私の様子を確認すると、少しだけ微笑んだ彼の表情が「悪ぃな」と元奥様達のことを謝っているように感じて、私も笑顔を向けた。
「わぁーったって。ありがとな。朝早くから起こしちまって悪かった。あとは俺がついてるから寝ていいぞ。」
「天元様ー!まきをさんがぁー!」
「須磨が悪いんですって!!」
「……おい、頼むからもう寝ろ。」
宇髄さんとまきをさんと須磨さんの声が子守唄のように聞こえる。
その内、雛鶴さんの声も混ざったことに気付いたけど、そのまま気を失うように寝落ちていたようだった。
四人揃うとやっぱりとてもしっくりくる。
でも、瑠璃さんも此処に混ざりたかったんだろうなぁ。
当たり前のように来ると思っていた未来が来なかった。
それは私への訓示でもある。
当たり前なんて無いんだ。
いつ死ぬか分からない。
日常こそが本物の宝物。
刀鍛冶の里でもそうやって思った筈なのに何故私にまた神様は伝えたかったのか。
その時の私は気付くことはなかった。