第28章 無欲と深愛※
隣に正宗がいると言うことは、俺の裾を引っ張っているのは…
「…っ、ほの花!」
胸ぐらを掴み上げていた瑠璃を離して、ほの花のそばに屈めば、苦しそうな顔をしながらも笑顔を向けてくれている。
「…おかえり。怪我してない?大丈夫?」
「…大丈夫って…こっちの台詞だわ。お前、外で倒れてたんだぞ…!?」
目が覚めたばかりなのに第一声は俺の心配。
その瞬間、肩の力が抜けて行く。
(…いつものほの花だ。)
少しくらい自分の体を心配してほしいと思う一方で、信じられないほど心が落ち着いて行くのが分かる。
どうもこうもやはりほの花は俺の心の安定剤としか言いようがない。
「…あー、そう、なんだ。ごめーん。あれ、正宗と瑠璃さんまで…。ごめんね。ちょっと夜に体調悪くなっちゃって薬草取りに行ったら目眩がしてそこから記憶ないや…。」
ほの花の心臓は穏やかなままで、そこに嘘はなさそうだった。
その代わり、煩いほどの拍動を見せているのは後ろに突っ立ったままの瑠璃。
ほの花の言葉に嘘はなくとも、やはり何か瑠璃がしたのかもしれない可能性は否定できない。
「…そんなの朝にしろよ。馬鹿ほの花。雨も降ってきてたからびしょ濡れだぞ。熱も出てる。」
「あー…雨の中寝ちゃったから…。ごめんね。」
すると、廊下にバタバタと足音が響き、慌てた様子で指示したものを持ってきてくれた三人の元嫁達がいた。
「ほの花さん…!気がついたんですか?良かった…!」
「…天元様、私たちが体を拭いてお着替え手伝うのでお風呂入ってきてください。」
「そうですよ〜!ほの花さんのことはお任せください!」
そう言って部屋の中に入ってくると、ほの花に寄り添ってくれた。
確かにこのままではほの花に添い寝することもできないので、「頼むわ」と声をかけて、部屋の外に出る。
いつもなら絶対に俺が一人になったところを追いかけてくる瑠璃の姿はなく、益々俺は腹が立ってきた。
それはもう自分が関与していると言っているようなものだぞ。
しかし、明らかに動揺している瑠璃を見るに後悔をしているのもまた事実なのだろう。
だからと言って許すことはできないが。