第28章 無欲と深愛※
「…ハァ…、クッ、…ハァハァ…。」
あー…、ヤバイヤバイ…。
効いてない。
作った解毒剤の効果はなく、とりあえずは対症療法で様子を見ているが、根本的な解決にはならない。毒が自然に抜けるのを待つなんて体力も体も持たない。
回らない頭で考えるのは他の解毒剤の調合だ。
症状をみて作ったものは全て試したが、不発に終わった。
でも、温室の中の薬草を使ってないことに気づいたのは先ほど。一般的な解毒剤を作ってみたけど、効いてないのは明白。
一刻の猶予も許さない。
何とか三日間耐えてきたが、症状はなかなか改善しない。
対症療法用に使った薬によって一時的に緩和する症状もあるけど、手当たり次第に薬を飲みすぎるのは良くない。
早くピッタリの解毒剤を作ってそれを服用することが目下の目標。
死ぬわけにはいかないのだ。
宇髄さんがもう帰ってきてしまう。
こんな状態で会えば疑われる。
でも、回らない頭で碌な考えが浮かばない。
目の前のことを対処するのに精一杯だった。
這うように縁側に向かうともう真っ暗闇。
ふらふらと立ち上がり、縁側伝いにゆっくりと温室に向かう。
昼間は暑い日が続いていると言うのに、夜は熱っている体を冷やしてくれるほどひんやりとしている。
心なしか吹いている風が湿っているということは雨が降る前兆だ。
「宇髄さん、大丈夫かな…」
雨に降られることくらいあると思うが、暫く会っていない彼のことが心配になるのはいつものこと。
余計なお世話だ。今はどう考えても自分の方が"大丈夫"ではないのだから。
温室はこんなに遠かっただろうか?
一歩一歩確実に近づいているのに、それの倍速で体力が消耗して行くのが分かる。
荒い呼吸によって己の体力も精神力もこぼれ落ちるよう。
面白いようにフラフラになっていく自分の体に笑いが込み上げてきた。
「…なさけな…。」
薬師だから大丈夫だと思っていたのは自分を買い被っていた証拠。
何の毒なのか分からないのに何百通りもある解毒剤を突き止めるなんて無謀にも程がある。
弱気になりたくないのに勝手に心が弱っていく。
真っ暗な温室で手探りで目当ての薬草を抜き取るとそれを握りしめて部屋に戻るため踵を返す。
でも、気付いたら意識が途切れていた。いつ倒れたのかも分からない。
私はプツンと事切れたかのように庭に倒れ込んでいた。