第28章 無欲と深愛※
遠方の任務の嫌なところは早く帰れないことだ。
早く帰りたくて、任務を終えるとすぐ帰路に着いたが、結局一日がかりで屋敷に戻ってきたのは明け方になった。
まさか瑠璃がいる時にこんな任務が入るなんてツイてないが、俺は音柱。
任務を放り出すこともできず、なるべく早く鬼狩りをして帰宅してきたのだ。
「…ほの花、寝てっかな…。早く会いてぇな。」
無意識に声に出してしまうほど枯渇したほの花を補いたくて仕方ない。
より早く帰るためにいつものように屋根の上を飛び、最短距離で家に向かう。
しかし、生憎今日は雨。
いくら夏になったからと言って、明け方の雨は少しだけ肌寒い。
雨具を付けていて、ペタリと肌にくっつく感覚も嫌いだ。
これでは早く会いたくとも、ほの花を抱きしめるためには自分をまず拭いたり、着替えたりして身支度をしなければならない。
彼女がいる空間にいるのであれば、一刻も早く温もりを感じたいと思うのは惚れた弱みだ。
どうせまだ瑠璃に酷いことを言われているのだろうという予想はついていたが、ほの花は大して取り合わない大人の対応をしていた。
故に大事にはならないだろうと勝手に思っていた。
それなのに庭に降り立ち、部屋に向かう最中に縁側の前に何かが落ちていることに気づいた。
洗濯物でも取り忘れたか?と思って近づいて行くとそれが物じゃないことがすぐにわかる。
姿形がどうも見たことのある気がしてしまい、勝手に心臓が煩い。
そんな筈はない。
考えすぎて頭がおかしくなっているのだ。
人間じゃない。
人間じゃない筈だ。
でも、近づけば近づくほど全身の血の気が引いていく。
見覚えのある夜着だとわかったところで俺は全速力でそれを抱き起こした。
「っ、ほの花!!!何で…!おい、しっかりしろ!ほの花!!」
びしょびしょに濡れて冷たくなっている夜着とは相反して燃えるように熱い体に震えが止まらない。
苦しそうに呼吸をするほの花を抱き上げると、急いで部屋に入った。
そして、夜中なのに構わず声を張り上げた。
「誰か!!すぐ来てくれ!」
屋敷中に響き渡る俺の声に全員が飛び起きてものの数分で部屋に集まったのは言うまでもない。