第28章 無欲と深愛※
初めは天元の新しい婚約者と聞いて、どんな女か品定めしようと思っていた。
三人の嫁が関係を解消したけど、新しい女が婚約者としていて、自分はそこにもう一人の嫁として入れてくれればいい。
でも、天元が思ったよりも本気で溺愛していて、悔しくてたまらなかった。
その時、本当は気付いていた。
私が何でこんなにもほの花を許せなかったのか。
宇髄家がどうのと言ってきたのはただの建前だ。
私は天元の心が欲しかった。
彼に愛されたかったのだと。
だけど、四人許嫁がいて、しきたりなのだから仕方ないと言い聞かせてきた。
彼を独り占めしたいと思っていても、それは許されないし、宇髄家に嫁ぐのであれば仕方ないと思っていたのに…
それなのに
再会した天元にはたった一人の愛する人がいた。
元嫁達との関係を解消しても娶りたいと思った唯一無二の女。
それがほの花だった。
喉から手が出るほどその立場が欲しかった。
次第に二人目にしてほしいという欲はなくなり、ほの花を追い出すことに躍起になった。
いなくなりさえすれば、彼からの寵愛を独り占めできると思ったから。
「でも、瑠璃さんが飲んでなくてよかったです。」
「…え?」
「体調崩したせいで、喧嘩相手がいないなんて寂しいですもん!」
天元の寵愛を独り占め?
…出来るわけがない。
出来るわけがないのよ。
いくら彼女が追い出しても、天元は何度でも連れ戻すだろうし、私に気持ちが向くと確約されるわけでもない。
毎日の罵詈雑言に耐えて、嫌みに耐えて、毒まで飲めと言われ、飲まされたも同然なのに一言も責めてこないほの花に勝ち目なんてない。
最初からわかっていたのかもしれない。
でも、止まらなかった。
ほの花の美貌も性格も状況も全てが羨ましくてたまらない。
だけど、今更態度を変えるなんてこともできない私はつめたいことばをかえすことしかできなかった。
「…偽善者。死んでほしいって思ってるくせに。」
「死んで欲しかったら既に殺してます。私、あなたより強いので。」
笑ったままにこやかに居間に向かうほの花の後ろ姿は何故か頼りなく見えた。
でも、その確かな歩みは私を安心させてくれる。
生きてると言うことが自分の罪を消してくれると思い込んでいたから。