第28章 無欲と深愛※
隣の部屋は天元の部屋。
今はほの花しかいないけど、朝起きて物音がしなかったせいで私は恐ろしくなって飛び起きた。
部屋には絶対に入るなと天元に言われていたから入ってなかったけど、生存確認だけしたくて襖を開けてみた。
でも、そこには布団も綺麗に片付けられていて明らかに既にほの花が起きていることを表していてホッとした。
あんな女、大っ嫌い。
だけど、こんなことで死なれるのは寝覚が悪い。
襖を閉じて、部屋に戻ろうとすると、「おはようございます」と声をかけられた人物に目を見開いた。
そこにいたのはいつもと変わらないほの花の姿で、私は唇を震わせた。
「何か御用でしたか?」
「…別に。生存確認しただけ。」
「ああ!なるほど。生きてまーす!ふふ。」
手には大きなお櫃。食事の支度をしていたのだろう。毒を飲んでおきながら普通に家事ができると言うことはやはり毒に耐性があったのだろう。
心配して損してしまった。
どことなく顔色が悪い気もしたが、普段から真っ白な肌の彼女だ。
毎日毎日顔色を確認しているわけではないのだから違いなど私に分かる筈もない。
それに耐性があるにせよ、毒を喰らえば多少の体調不良はあり得ること。
「瑠璃さんは大丈夫なんですか?お飲みになると言っていましたよね?」
「あんたが全部飲んじゃったんでしょうが。」
「え?!あれ二人分だったんですか?先に言ってくださいよ。」
「言ったわ。なのにあんたが飲み干したんだから私のせいじゃないわ。」
そう。飲むわけがないとたかを括っていたが、飲むという選択をしたならば半分ずつ飲むと言う意味だった。
それでも十分な効力があるし、同じ物を飲まなければ私がズルをする可能性だってある。
なのにほの花は何の疑いもなく全部飲み切った。
疑うと言うことを知らないの?
悪びれもせずに顔を逸らしても、ニコニコと笑ったままのほの花にぼんやりとそろそろ潮時なのだと感じていた。
この調子だと恐らく余裕で生きてるだろうし、生きてるならば認めると約束した。
馬鹿な女だけど、此処まで来るともう打つ手がない。
目的を果たすまで…と思っていたけど、昨日毒をも飲み干したほの花を見て、自分がしていることが馬鹿馬鹿しく思えてきたのだ。