第28章 無欲と深愛※
何が正解なのか分からなかった。
あの場で飲まなければこの生活がまだ続くかと思うと気が滅入ったし、早く決着をつけたくとも毒を飲まそうとしてくる切羽詰まった様子の瑠璃さんを見ると悲しくてたまらなかった。
誰も悪くないのにこんなことになってしまうことに人生の儚さを感じた。
何故飲んだか聞かれたら、自分の薬師としての能力に賭けた。
それだけ。
飲んで私が生き残れば認めてくれると言う。
そうしなければ彼女の心は救われないと感じたから。
飲まなければ一生私を認められずに苦しむことになる。
だから飲んだ。
飲むことで彼女に納得して欲しかった。
私はどう頑張っても宇髄さんの元から離れることはできないのだから。
飲んだ瞬間は特に何ともなかった。
後味は何か複雑な味がして、いろんな毒が混ざっていると直感的に感じた。
と言うことは解毒剤は複数の薬剤を調合して作らなければならない。
症状が出てからでは作れないかもしれないと悟った私は急いで部屋に戻ると薬箱からありとあらゆる種類の解毒剤の調合を始める。
解毒剤ならばしのぶさんにも色々教わっていたから知識は幅広くある。
問題は当たりを引くまで作り続けられるかと言うこと。
何の毒か分からない以上、作った解毒剤を飲みながら試すしかない。
それでも生き残るしかない。
生き残れる筈だ。
私は薬師。
人の命を助けるのが仕事。
自分の命も助けてみせる。
こんなことで死ぬのは御免被る。
体に不調が出始めたのは幸いにもその日の夜。
体が寒くて寒くて仕方ない。
夏なのに寒気に襲われているのに、汗も止まらない。
「…熱出そう…。」
独特な寒気は熱が出る前触れ。
高熱を引き起こすのであれば解熱剤も飲まなければいけないけど…。
とにかく水分をたくさん摂って少しでも早く体から抜くことを考えよう。
問題はそれだけではない。
彼女に毒を飲まされたなんてことがバレたら恐らく宇髄さんは許さない。
そうなってしまうと、私の望む結果にはならないと直感的に感じていた。
歪み合うだけで終わるなんて悲しすぎる。
私のことがなければ、此処まで関係性が拗れることはなかった筈だ。
拗れたままにすれば、お互いが一生悔やむことになる。
だから、私のすべきことは一つだった。
──人知れず毒を中和し生き残ること。