第28章 無欲と深愛※
「この小瓶の毒を半分ずつ飲むの。私も飲むからあんたも飲みなさい。それで生きてたらあんたのことを認めてあげる。大人しく帰るわ。」
そう言うと私にその小瓶を差し出してきた瑠璃さんに目を見開く。
小瓶を見ただけでは何の毒なのかわからない。
でも、それだけで彼女の本気度が伝わってきた。
自分も飲むと言うことは刺し違えたとしても構わないと言う覚悟の表れ。
私はその小瓶を受け取ると彼女を見つめた。
「どうする?出来ないならあんたが出て行きなさい。私は飲めるわ。天元のためなら。」
宇髄さんのために毒を飲んで、本気度を表せと言うこと?
こんな捨て身の作戦を考えるほど追い込まれている彼女に悲しい気分になる。
私が飲んで死んだりしたら、宇髄さんは彼女を許しておかないだろう。
…それでもいいんだ。
万が一、殺されても。宇髄さんに殺されるなら本望だと思っているのだろう。
そうしたとしても、自分は止められない。
もう手遅れなのだと後戻りはできないと彼女の瞳が言っている。
結局、私が毒を飲んで助かったとしてもそれを知った宇髄さんは彼女を許さない。
どちらにしてももう彼女に行き場は無くなってしまう。
では、飲まなかったら…?
私のことを一生認めずに生きることになる。
それは生き地獄ではないか。
どちらにせよ、彼女に待ち受けるのは悲しい末路しかない気がしてならない。
「…話し合いでは難しいですか?仲良くなりたいというのは…」
「あんたと仲良くする気はないの。早く選びなさいよ。天元のことを好きなら飲めるでしょ?」
手に持っている小瓶を私の前にズイッと押し付ける。
死ぬか生きるか…。
分からない。
でも、私と瑠璃さんの両方が生き残る術はこれを飲んで私が生きること。
宇髄さんは怒るかもしれないけど、そうすれば彼女は少なからず認めてくれる。
認められなければ彼女は一生憎悪の中で生きていくことになってしまう。
私は薬師だ。
飲んだ後に考えればいい。
解毒剤の調合を。
「では、頂きます。」
まさか私が飲むと言う選択をすると思わなかったのだろうか?
目を見開いて激しく動揺する彼女を横目に小瓶の中身を一気に飲み干した。