第28章 無欲と深愛※
「…あんた一体何者なの?どこかの令嬢なんでしょう?どこの忍の里なの?」
「全然令嬢なんかじゃありませんよ。ただの田舎娘です。」
「ただの田舎娘が護衛なんてつけるかしら?」
「彼らはそう言ってくれていますが、幼い頃より共に育った兄のような存在です。」
聞けばちゃんと答えてくれるが、核心に付くことは教えてくれない。
それは誰に聞いても。
何のためなのかは分からない。
だけど、それ以上聞くなという無言の圧力も感じている。
確かにこの女のことをそこまで知りたいわけでもないし、いずれは追い出すことは決まってるのだから知らなくても良いと思っている。
忍の一族は他の地方にもまだいるようだし、この女がそこのくの一だとしても関係ない。
宇髄家の格には遠く及ばない筈だ。
「…ふーん。そう。」
このまま一週間経って、追い出してやろうと目論んでいたけど、天元に妨害されるのは目に見えている。
正攻法でやってもこの女に勝てる見込みがないのであれば、少し痛い目にあってもらうしかない。
天元も他の嫁たちも陰でずっと私を馬鹿にしてきたのでしょう?
勝手に出て行って、私だけ置いてけぼりにして、酷いことをしたくせに、私がほの花にすることだけをあんなに咎めるなんて許せない。
あんた達が必死に守ってるお嬢様を痛めつけたら自分達の過ちに気づくでしょう?
「…良いことを教えてあげましょうか。」
「え?良いことですか?」
この女は私の罵詈雑言も気にした素振りを見せない。
でも、それは天元に"今"愛されているからよ。
過去の行いを知ったとしても、天元を愛せるかしら。
もがき苦しめばいいのよ。
あんたなんか大嫌いよ。
私のように嫉妬に駆られて我を失って、やり返してきなさいよ。
そうしたら少しは天元が私を気にしてくれるわ。
全てはあんた次第。
私はほの花に向き合うと口角を上げた。
「天元の初めての相手は私なの。」
「…え?」
その瞬間、今まで笑顔だったほの花の顔が面白いように崩れて行った。
動揺しているのは一目瞭然。
確かに今はあんたしか愛してないし、抱かないかもしれない。
でも、あんただけなわけないでしょ?
過去にいた女を知るべきよ。