第28章 無欲と深愛※
どれだけ突き放しても、冷たくしても、暴言を吐いても犬のように付き纏ってくるほの花に面倒になりつつあったのは天元が不在の僅か二日目のこと。
余程、私に認めてもらいたいのか必死の様子が滑稽に見える。
「私に懐いたところであんたを認めることはないから。」
「懐くなんて…、ただ仲良くしたいなぁって思っただけです。」
縁側で外を見ていたらいつの間にか隣に来て、大福を食べながらお茶を啜り出したほの花。
「一緒にどうですか」と言われたが、絆されるつもりは毛頭ない。
それを無視して視界に入れないことで返答とした。
仲良くなりたいなんてよく言えたものだ。これほどまでに私に罵詈雑言を言われてよく耐えられると感心する。
要するに鈍感なだけだが。
「天元があんたなんかに御執心な理由が全くわかんないわ。」
「奇遇ですねぇ。私もそう思ってます。」
「馬鹿にしてんの?」
「とんでもない。宇髄さんの恋人となれただけで私は人生の徳を半分ほど使った気がしてます。運が良かっただけです。」
偉ぶるわけでもなく、自慢するわけでもなく、淡々とそう話すほの花だがその寵愛を一身に受けているのは間違いない。
最初こそ、控えめなフリをしているしたたかな女だと思っていたが、ブレないその女の姿勢にこのような性格なのだということはなんとなく分かった。
「何で名前で呼ばないの?恋人なのに変な女。」
「一応、彼は私の上司でもあるので…。必要な時に名前で呼んでしまわないために普段から苗字で呼ぶようにしています。」
そうか。
そういえばこの女はツグコとか言って、天元の弟子のようなものだと聞いていた。
戦い方を教えてもらったと言うだけあって、手を掴まれた時の力強さは驚いたし、か弱そうに見えて全くそんなことないことは身に染みて分かっている。
正攻法で彼女に勝負を挑んでも無駄だと言うことも。
そんな私に残された方法なんて汚いやり方しかない。
でも、シャランと揺れる花飾りを見ると、いつだってほの花は天元に守られているように見えて腹が立って仕方ない。