第28章 無欲と深愛※
ほの花と言う女は思ったよりも思い通りにならない女のようだ。
天元がこの女を溺愛しているのは一目瞭然なのに可愛いと言われなければ八つ当たりするかもしれないから着飾らないと断言していたが…
周りから見てもそんなこと天元が言うはずがないのに何故そんなにも自信なさげなのか?
そう言うことならば…身につけている装飾品も恐らく天元が買い与えたものなのだろう。
自ら着飾ろうとしないこの女が自分のものを買うとは思えない。
着飾らせて天元にヤキモキさせようと思ったのに、どうやらそれは難しいらしい。
無理矢理着飾らせてやることも出来なくはないが、あの女にそんな労力を惜しむのは面倒だ。
ニコニコで包みを持って帰ってきたほの花を横目に店を出て家までの道を歩いていく。
「え、瑠璃さんー?本当に帰るんですか?」
「当たり前でしょ。もういいでしょ?あんたは帰ってこなくてもいいわよ。さようなら。」
「待ってくださいよー!」
再び腕を掴まれたので、眉間に皺を寄せたままその女を睨む。
絆されるつもりはないのだ。
こんな女と仲良くなるつもりもない。
少しばかり謙虚だと分かったところでどうでもいいこと。認めるわけがない。
それなのに睨みつけても尚ニコニコと笑顔のほの花にため息を吐き、振り払った。
「…煩いわね。もう用はないの。」
「はい!分かってます!これ、渡したくて。」
「…は?」
その女の手の上には先ほど、自分ならこの色だと言った紅が乗っていた。
「何なの?賄賂のつもり?こんなのもらっても…」
「賄賂じゃないです。普通に今日のお礼です。ありがとうございました。もし、私なんかにもらったのが嫌なら使わなくてもいいです。勝手にしたことなので。では、買い物に行ってきますね〜!」
無理矢理手の中に握らされると、手を振って町に向かって駆け出したその女の後ろ姿を見る。
こんなものを貰ったところで気持ちは変わらない。
だけど、店の前で堂々と捨てるのも憚られて、仕方なく懐に仕舞うと家路に着く。
邪な気持ちは本当に無いのかもしれない。
ただ純粋に御礼にくれただけかもしれない。
でも、此処まで来た以上、引くに引けない自分もいた。
私はあの女とは違う。
絶対に復讐してやるわ。