第28章 無欲と深愛※
男たちにもっと注目されてしまえば、ほの花に愛想をつかすかもしれない。天元は見た限りこの女を溺愛しているし、それならば着飾らせてしまえば、焦るはず。終いには嫉妬でほの花を捨てるかもしれない。
そっちに期待するのもアリなのかもしれない。
「あんたのも選んであげるわ。」
「えー?私は大丈夫です。」
「何でよ。ああ、天元に化粧するなって言われてるの?」
「いえ、そうじゃなくて…。私はお化粧も苦手だし、似合いませんから。瑠璃さんならこの色ですかね?」
もう天元に先手を打たれて、化粧するなと言われてるのかと思い、慌てたが返ってきた言葉に驚いた。
何なのだ、この女の自分自身に全く興味のなさそうな様子は。
年頃の女子なら少しは着飾りたいと思う筈だ。恋人がいるならば尚更だ。
それなのに目の前にいる女はそんなものに微塵も興味はなさそうで、今度は私に紅を合わせ出した。
「…そんな色好きじゃないわ。私ならこれを選ぶけど、あんたはこの色が良いと思う。」
「えー?私は良いです。勿体無いので…。でも、ありがとうございます。」
「何で?自分のも買えばいいじゃない。」
見たところお金に困ってはいなさそうだ。
仕事に行っていたと言っていたから稼ぎもそれなりにあるのだろう。
でも、何故そこまで拒否するのか分からない。
「使いこなせるか分からない物を買うのはちょっと…。甘味ならすぐ買うんですけどねぇ…。」
「意味わからないわ。天元のために着飾りたいと思わないのね。変な女。」
「……宇髄さんのため…?」
別にケチと言うわけではなさそうだ。こう言う物を買うことが躊躇うだけで甘味は買うと言っているし、紅だって安くないのに平気で三人の分を買おうとしてるところを見るとお金を出し惜しみしている感じは見られない。
そういえば何故この女は天元のことを苗字で呼ぶのだろうか。
益々よくわからない。
「…うーん…、宇髄さんのため、と言うならやっぱり買わないです。」
「何で?」
「人のために綺麗になろうとすれば、きっと認めてもらえないと悲しくなってしまうからです。宇髄さんに可愛いって言ってもらえなかったら悲しくて彼に当っちゃうかも…だから買わないです。」
苦笑いしながらそう言うほの花は会計をすると言って三人分の紅を持つと店奥に向かっていった。