第28章 無欲と深愛※
だからと言って、その容姿を盾にして天元を誑かしたのは間違いないのだから油断できない女だ。
計算高い、傲慢な女だと言うのを隠しているに違いない。
注意深く様子を観察していると、弾けんばかりの笑顔でこちらを振り向くと「此処です!」と店を指差した。
「…わかったわよ。大きな声出さないでよ。煩いわね。」
「あ…ごめんなさい。」
「紅を選んだら私は帰るわ。買い物くらい一人で十分でしょ。」
「えー…帰りにお茶でもしましょうよ。」
やはり私を手懐けようとしているのだ。
そうでなければ、敵意を向けられている相手にお茶の誘いなどするものか。
その手に引っかかるほど愚かではない。
「ご機嫌取りは御免なの。ほら、早くして。」
「えー…、仕方ないですね!わかりました!」
もっとごねられるかと思いきや、すぐに引き下がるほの花に肩透かしを喰らう。
押したり引いたりが絶妙で、これがこの女の計算なのだと感じると手の内がわかり、少しだけ優越感に浸った。
(…お見通しよ。馬鹿な女)
店の中に入れば、所狭しと並ぶ化粧品の数々に目を輝かせるほの花を急かすように背中を押してやる。
「…早くして。あんたとなんかと一分でも一緒にいたくないのよ。」
「はーい!わかりました!」
どんな嫌みを言っても暖簾に腕押し。
全く気にしていない様子のほの花は出会った日からずっと変わらない。
今も私の暴言を軽く受け流すと、紅を見ながら首を傾げている。
「…雛鶴さんは、これですかねぇ…。」
「あんた馬鹿?雛鶴はこっちでしょ。」
「え?そうなんですか?」
「雛鶴は色が白いからこっちのが似合うに決まってるでしょ。本当に全然お洒落が分かってないのね。呆れるわ。」
美しい容姿をしているのに化粧っ気のないほの花は本人の申告通り、感性は皆無だ。
地味な色の物ばかり身につけているのは分からないからだろう。
それか…天元が他の男に見つからないようにわざとそうさせているのかもしれない。着飾ってしまえば、もっと男共の視線を集めることだろう。