第28章 無欲と深愛※
しかし、見れば見るほど顔色一つ変えないその姿に尻尾を出すのはまだ時期尚早かと思い直し、言葉の続きを待つことにした。
「一緒に住まわせてもらってるのにいつも家のことはお願いしちゃってるので、日頃のお礼も兼ねて何か贈りたいんですよ!でも、私…そう言う感性が全然無くて…誰かに相談したかったんです。瑠璃さんが来てくれて良かった〜!」
──瑠璃さんが来てくれて良かった
それは此処に来てから誰一人として言ってくれなかった言葉。
皆が皆、厄介者扱いするのにこの女にまさか言われるとは思わなかった。
だからといって絆されるわけではないし、その言葉を言うことで私を懐柔しようとしているのなんて見え見えだ。
(…馬鹿で分かりやすい女)
手懐けようったってそうはいかない。
あんたなんかいつでも殺せるのよ。
「…さぁ?適当に紅とか小物とかあげればいいんじゃない。」
「紅…。でも、色とか何が似合うか分からないから一緒に選んでくださいよ!お願いしますー!」
「はぁ?!ちょ、引っ張らないで!分かったわよ!」
結局、買い物に付き合えというのはそう言う意図もあったらしく、再び私の腕を掴むとズンズンと進んでいくほの花。
どういう企みかは分からないが、雛鶴達に贈り物をしたいと言うのは本当らしい。
それにつけ込み、私を懐柔しようとしてるのもバレているが。
「そんなことしてもあんたに絆されたりしないわよ。」
「あはは!やっぱり〜!そうですよね?まぁ、それは良いです。此処を真っ直ぐ行って二つ目の角に化粧品を扱うお店があるんです!そこに行きましょう!」
よく見れば、ほの花は淫女と思っていたが、特に化粧が濃いわけでも無く、手も細かい傷が多い。着ている着物は質は良さそうだが、華美ではない。
装飾品といえば、髪についた花飾りと首から下げている五芒星の首飾りに耳飾り。
煌びやかな装飾品など身につけていないし、贅沢もしていなさそうだった。
確かに容姿はとても美しいと思う。
女の私から見ても。
着飾ってなくとも品があるし、その容姿に相俟って歩く度に香る花の匂いに男達が振り返っている。
天元が骨抜きになるのは分からなくもない。