第28章 無欲と深愛※
「須磨、明日は休暇を取って?ほの花さんがまた一日ずつ休んでって言ってくれてるの。」
「えええ?!ほの花さん、帰ってきたばかりじゃないですかぁ!!天元様に怒られないですかぁ?」
「そうは言っても瑠璃さんを説得するために協力してほしいと言われてるの。言う通りにしましょう?」
外の掃き掃除をしていると雛鶴さんが困ったような顔をして声をかけてきた。また瑠璃さんが何かしているのかと思ったら、そんなことを言われて目が点になってしまった。
だってほの花さんは一ヶ月もの間休みなく働いているのだ。帰ってきたばかりでそんなに働かせたら体を壊すかもしれないし、天元様のいない時に働かせたのがバレたら私たちが怒られるのではないかとすら思うのだけど…!
「有難いですけど…、瑠璃さんどうせ分かってくれないですよぉ〜!もう追い出しちゃえばいいのに!天元様ったらぼんくら!!」
「天元様がいない時にほの花さんが腹いせに襲われたらそれこそ大問題よ。納得させないと意味がないでしょう?」
「…そうですけどぉ…、ほの花さんは負けないですよぉ!強いですもん!」
そうだ、ほの花さんは凄く強いのだから何の心配もいらないのに何故追い出さないの?
誰も彼も不満はもう爆発寸前のはずだ。
「瑠璃さんはきっとどんな卑劣な手を使ってでも殺しに来るかもしれないけど、ほの花さんが手を出せると思う?」
「…そ、それは…。」
「いくら強くても反撃できない気持ちが少しでもあるなら不利に決まってるでしょう?ほの花さんは殴られたって殴り返したりしないわ。そう言う人だもの。」
確かにそうだ。
女性に暴力は振るわないと言っていたし、昨日だって天元様が瑠璃さんに殴りかかる勢いだったのに止めたのはほの花さん。
しかも"女性を殴るなんて最低"と言うほど。
だからこそ迂闊に追い出せない。
殺されることはせずとも怪我をする可能性は高い。
しかも納得しなければ何度だって命を狙う可能性がある。
「…分かりましたぁ。言う通りにします。あとでお礼を言いに行きます。」
「ええ。そうして。じゃあ、掃除宜しくね。」
雛鶴さんの後ろ姿を見送ると何とも腑に落ちない気持ちで空を見上げた。