第28章 無欲と深愛※
荒い呼吸を整えてからゆっくりと起き上がるとぼーっとしたままこちらを見ていたほの花と目が合う。
「…どうした?物足りねぇならもう一発するか?」
「違うよぉ…。ちょっと落ち着いた?」
彼女の言葉に目が点になる。
"ちょっと落ち着いた?"とは恐らく俺の心情を汲み取った一言。
悶々としたやり切れない気持ちをほの花は分かってくれていたのだろう。
だから普段なら食事を中断してまでするような行為ではないと咎めるところを慈しむようにこちらを見ていた。
「…悪ぃ。止まらなかったわ。」
「ううん。あのね、私は大丈夫だから。心配しないで?天元が愛してくれてるって分かってるから平気なんだよ?分かってる?」
上目遣いでそう訴えかけられるとあまりの可愛さに頬が緩み、思わず彼女の顔に手を添えた。
「分かってるって。でもよ、自分の女を悪く言われんのは許せねぇんだわ。ほの花だって逆の立場ならそうだろ?」
「それは当たり前だよ!!私だって天元が悪く言われたら決闘を申し込む!!!」
「何だよ…決闘って…。ハハッ…!」
力の抜けるような発言をするほの花に心に刺さった棘が溶けていくようだった。
こうやっていつもほの花はいとも簡単に俺の心を救ってくれる。
欲がなくてヤキモキすることもあるが、結局こういう奴だから大切にしたいと思うし、守ってやらなければと思わせられるんだ。
「瑠璃さんのことは大丈夫。私、ちゃんと説得してみせるよ!天元は見守ってて?でも、怒ってくれて嬉しいよ。ありがとう。」
「…俺も決闘申し込もうか…。そうすれば公にアイツをぶん殴れるじゃねぇか!」
名案だ!とほの花を見て笑いかけるが、眉間に皺を寄せて辛辣な言葉をかけられる。
「…女の子に手をあげるなんてサイテー…。信じられない。」
「はぁ?!だからお前、どっちの味方なんだよ!?」
「天元に決まってるけど、女の子に手を出すのは許せない。もし瑠璃さんを殴ったら私が天元を殴る!」
「お前…地味に話が矛盾してるし、俺、恋人じゃねぇの…?」
ほの花の驚きの発言に今度はこちらが顔を引き攣らせるしかない。
だけど、こうやって彼女が俺を安心させようとしてくれていることもまた分かっている。