第28章 無欲と深愛※
新鮮なお刺身をもぐもぐと食べていると、突然宇髄さんに抱き上げられて私はそのまま彼の部屋に連れ込まれる。
箸は持ったままだし、何ならまだお刺身を咀嚼していると言うのに一体何なのだ?
文句の一つでも言おうと思ったのに、彼の顔が泣きそうなほどつらそうなので何も言うことができずに目を見開いて見つめることしかできない。
部屋に入ってからも、座り込み優しく抱きしめるだけで何も言わない宇髄さん。
口内に残っていたお刺身を嚥下するとゴクンという音が聴こえて何だか恥ずかしい。
「…天元?どうしたの?お刺身好きじゃん?食べなくて良いの?」
フグ刺しも美味しかったけど、他のお刺身や料理もどれも美味しくて幸せを感じていたのに宇髄さんは苦しそうだ。
恐らく…瑠璃さんのことを気に病んでいるのだろうけど、まさか此処まで…こんな泣きそうになるほど気にしてくれてるなんて思いもしなくて申し訳なく思った。
「…マジで耐えらんねぇ…。俺の女だぞ?!ふざけやがって…。殴り殺してぇ…。」
「…こらこら。駄目だよ〜。お腹空いちゃうよ?ご飯たべよ?」
「アイツがいるんじゃ食欲失せる。後で食うからそれまで此処にいろ。俺が守ってやるから。」
そう言って私を抱きしめてくれる宇髄さんだけど、その姿はどこか頼りなくて私の体を抱きしめていると言うより縋り付くような…そんな雰囲気。
でも、そんなことを言えないし、彼の背中に手を回すと抱きついてみた。
宇髄さんの心臓の音が心地よくて目を閉じてそれに聴き入る。
「…ごめんな。俺のせいでこんな目に遭わせてよ。過去の俺を殴ってやりてぇわ。本当にごめん。」
絞り出すような声に目尻は下がり、嬉しくて笑いが込み上げてしまう。
「あはは…!何か弱々しい天元可愛いー!」
「はぁ?!テメェ!俺が真剣に悩んで謝ってんのに!!」
「だって…可愛いんだもん!ふふ。ありがとう!嬉しい。私だけこんな弱々しい天元が見られるなら役得だなぁ。よしよし〜」
「ふざけんな!俺はこんな気分を味わうのは御免だ!!」
言葉は強気なのに抱きついて離れない宇髄さんはやはり可愛くて顔がにやけて仕方がない。
そんな私を咎めてくる彼だけど止めることなどできなかった。